第107話 一生の宝物とずっと愛していることと今夜どうか……

文字数 894文字

 緒川さんが、先生との間にあったことを話してくれて、少しだけ僕の知らない先生を知ることが出来て、すごく感激したよ。僕はずっと、先生の前以外では、あまり感情をあらわにしたことがなかったのに、望の前では何度も、そのときは、緒川さんの前でも泣いてしまった。
 望ならともかく、僕はそういうキャラじゃないのに、すごく恥ずかしいよ。
 
 正直なところ、先生の手紙については、今もまだ理解しきれていない。あそこに綴られていた、僕に対する気持ちは、とてもうれしかったけど、緒川さんが言っていたように、先生も、実際にこういうことになるとは思っていなかったのかな。
 いつか僕の命が尽きて、天国で再会することが出来たら、ぜひ真相を聞かせてください。そのとき僕は、おじいさんになっているかもしれないけど、先生なら、きっと僕がどんな姿になっていても気づいてくれるよね。
 
 先生が、ずっとブルームーンストーンのネックレスを着けていてくれたと聞いて、とてもうれしかった。先生は、最期まで僕を愛していてくれたんだね。
 緒川さんが絵葉書とネックレスを僕に渡してくれたこと、本当にありがたいと思う。緒川さんは、とても優しい人だね。
 僕も、あの日、美術館で先生が買ってくれた絵葉書、今も大切に持っているよ。二組の絵葉書のセットとネックレスは、先生の思い出とともに、僕の一生の宝物です。
 
 ところで、望は、洋館の敷地内で、まったく客の来ないカフェをやっていたんだけど、階段から落ちて足を怪我して以来、ずっと休業していたんだ。もうあきらめたのかと思っていたら、怪我も治って、明日から再開するそうだよ。
 アルバイトの陽太くんの協力もあって、今度はうまく行きそうだよ。望が、僕にも手伝えとうるさく言うけど、まだ当分の間、僕はこうして、一人静かに先生のことを考えていたい。
 
 最初に見たとき、中天にあった居待ち月は、今はもう、ずいぶん西に移動したよ。もうそろそろベッドに入らなくちゃ。
 先生、もう一度言うよ。僕も先生のことが大好きです。今も、これからも、ずっと先生のことを愛しています。
 先生、今夜、どうか夢の中に出て来てください。(終)
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