第24話 保健室のベッドと引き下がらない菜月
文字数 1,025文字
「影森くん」
名前を呼ばれて我に返ると、朔は椅子に座ったまま、頭を抱えてうずくまっていた。
「大丈夫?」
菜月が、心配そうな顔で見つめている。言い争っていた三年生たちは、今はもう、何事もなかったかのように絵筆をとっている。
「あ……はい」
少し、気分が悪い。
「顔色がよくないみたい。保健室に行く?」
そのとき、二年生の女子がこちらを向いて言った。
「影森くん、どうかしたの?」
菜月が答える。
「具合が悪いみたいだから、今から一緒に保健室に行って来るわ」
「大丈夫?」
二年生の言葉に、朔は小さくうなずいた。
朔が保健室のベッドに横たわると、部室に戻るとばかり思っていた菜月が、椅子をそばに引き寄せて座った。気まずい思いに押し黙っていると、白衣を着た保健の女性教師が菜月に声をかけた。
「私、ちょっと職員室に行って来ますね。すぐに戻りますから」
「はい、どうぞごゆっくり」
明るく答えてから、菜月は朔を見る。
「落ち着くまで、ゆっくり休んで」
「はい……」
菜月にそばで見つめられていては、落ち着きたくても落ち着けないが。
すると、菜月が言った。
「そのまま楽にして聞いてね。私やっぱり、君のことが心配なの。何か困っていることがあるなら、話してほしいな」
あぁ、さっきのあれは、明らかに失態だった。そう思いながら、朔は首を横に振る。
話せることなど何もない。だが、今度は菜月も引き下がってくれない。
「クラスメイトとは、うまくいってる?」
「はい」
うまくいっているも何も、親しい友達はいないし、誰かと口を利くこともほとんどない。だが、いじめられているわけでもないので、とりあえずうなずいておく。
「じゃあ、おうちでは? お父さんやお母さんとの関係は?」
ここは、うまくやり過ごさなくてはならない。
「……うまく、行っています」
だが、一瞬、間が空いてしまったし、少し目が泳いだかもしれない。案の定、菜月が話し始めた。
「あのね、例えばDVに関しての相談を受け付けている窓口や、シェルターなんかもあるわ。もし必要なら」
菜月の言葉の途中で、朔は激しく首を横に振る。そんなことが出来るわけがない。
またも涙がこみ上げそうになり、そんな自分を必死にいさめる。何をめそめそしている。甘ったれるな。先生の同情を買いたいのか。
「そんな、ことは……」
それなのに、言いかけた途端、涙がこみ上げ、それ以上しゃべれなくなった。朔はあわてて目元をぬぐいながら、顔を背ける。
「影森くん……」
名前を呼ばれて我に返ると、朔は椅子に座ったまま、頭を抱えてうずくまっていた。
「大丈夫?」
菜月が、心配そうな顔で見つめている。言い争っていた三年生たちは、今はもう、何事もなかったかのように絵筆をとっている。
「あ……はい」
少し、気分が悪い。
「顔色がよくないみたい。保健室に行く?」
そのとき、二年生の女子がこちらを向いて言った。
「影森くん、どうかしたの?」
菜月が答える。
「具合が悪いみたいだから、今から一緒に保健室に行って来るわ」
「大丈夫?」
二年生の言葉に、朔は小さくうなずいた。
朔が保健室のベッドに横たわると、部室に戻るとばかり思っていた菜月が、椅子をそばに引き寄せて座った。気まずい思いに押し黙っていると、白衣を着た保健の女性教師が菜月に声をかけた。
「私、ちょっと職員室に行って来ますね。すぐに戻りますから」
「はい、どうぞごゆっくり」
明るく答えてから、菜月は朔を見る。
「落ち着くまで、ゆっくり休んで」
「はい……」
菜月にそばで見つめられていては、落ち着きたくても落ち着けないが。
すると、菜月が言った。
「そのまま楽にして聞いてね。私やっぱり、君のことが心配なの。何か困っていることがあるなら、話してほしいな」
あぁ、さっきのあれは、明らかに失態だった。そう思いながら、朔は首を横に振る。
話せることなど何もない。だが、今度は菜月も引き下がってくれない。
「クラスメイトとは、うまくいってる?」
「はい」
うまくいっているも何も、親しい友達はいないし、誰かと口を利くこともほとんどない。だが、いじめられているわけでもないので、とりあえずうなずいておく。
「じゃあ、おうちでは? お父さんやお母さんとの関係は?」
ここは、うまくやり過ごさなくてはならない。
「……うまく、行っています」
だが、一瞬、間が空いてしまったし、少し目が泳いだかもしれない。案の定、菜月が話し始めた。
「あのね、例えばDVに関しての相談を受け付けている窓口や、シェルターなんかもあるわ。もし必要なら」
菜月の言葉の途中で、朔は激しく首を横に振る。そんなことが出来るわけがない。
またも涙がこみ上げそうになり、そんな自分を必死にいさめる。何をめそめそしている。甘ったれるな。先生の同情を買いたいのか。
「そんな、ことは……」
それなのに、言いかけた途端、涙がこみ上げ、それ以上しゃべれなくなった。朔はあわてて目元をぬぐいながら、顔を背ける。
「影森くん……」