第91話 取り乱すことが怖い朔と緑茶を淹れる望と緒川が差し出したもの

文字数 630文字

 本来ならば、ロビーで待つのが礼儀なのかもしれないが、望の足の怪我を理由に、緒川には部屋まで来てもらうことにした。
 本当は、人の目がある場所で、昼間のように取り乱してしまうことが怖かった。さっきは、ひどく動揺してしまい、涙をこらえることに必死だったのだ。
 手紙の送り主に会ったというだけでも驚いたし、菜月が自分のことを話していたのだと聞いて、心が掻き乱され、とても冷静ではいられなかった。
 
 
 緒川は、約束の時間通りに、朔たちの今夜の宿となるツインルームにやって来た。
「お邪魔します」
 にこやかに入って来た緒川は、肩にキャメル色のショルダーバッグをかけている。
「いらっしゃいませ」
 望は、カフェの店主然とした口ぶりで、テーブルに用意しておいた緑茶を淹れ始める。
 
 
「さっそくなんですけど」
 椅子に座るなり、緒川は、バッグから大ぶりな封筒を取り出して、朔に向かって差し出した。朔は、緊張しながら受け取る。
「どうぞ、中を確かめてください」
「はい……」
 封筒の入り口を開いて中をのぞく。入っているものを目にして、そのまま動けなくなっていると、横から望に声をかけられた。
「朔ちゃん?」
 止めていた息を吐いてから、朔は、中のものを出してテーブルに置く。それは、三枚組の絵葉書と、ブルームーンストーンのネックレスだ。
「これは、一緒に美術館に行ったときに買ったもの。それから、これは、俺が贈った……」
 それきり何も言えなくなって、じっとそれらを見つめていると、緒川が言った。
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