第33話 見知らぬ男性に付き添われる朔と衝撃的な話
文字数 1,070文字
「朔ちゃん!」
両親とともに葬儀場に駆けつけると、朔は見知らぬ男性に付き添われていた。血の気のない顔をした朔は、最後に会ったときよりも背が伸び、頬がほっそりとしている。
男性が、望の父に名刺を差し出しながら言った。
「蜂須 と申します。現在、朔くんのマネージメントをさせていただいています」
マネージメント? 意味がわからず、望たち親子は顔を見合わせる。すると、蜂須が言った。
「朔くんの最近の活躍はご存じありませんか?」
その絵ならば、望も見たことがあった。儚げで美しい女性と月をモチーフにした、繊細で透明感のあるイラストだ。
人気作家の小説の表紙を描いたことがきっかけでブレイクしたというイラストレーターは、プロフィールを公表していなかったが、それが朔だというのか。そういえば、イラストレーターの名前は、たしかSAKU.Kとかいったはずだが、それを朔と結びつけて考えたことはなかった。
蜂須は、親族である望たちに向かって、慇懃に言った。
「本人の希望で、プロフィールは一切伏せています。くれぐれも、ご内密にしていただきますようお願いいたします」
話している横で、朔は一人、ふらふらとパイプ椅子に近寄って腰を下ろした。すかさず望は、彼に近づく。
「朔ちゃん、いったい何があったの?」
家が全焼し、朔の両親が亡くなったというのだ。すると朔が、ぼんやりと虚空に目をやったまま言った。
「あいつが、お母さんを殺した」
みんなの視線が、朔に集まる。朔がぽつりぽつりと話す内容は、あまりに衝撃的だった。
すらりと背が高くハンサムな伯父は、一流商社に勤め、センスのいい服に身を包み、いつもにこやかだった。そんな伯父と兄弟でありながら、ファッションセンスも教養もなく、食堂を営む父を持つ望は、ひそかに朔をうらやんでいたのだったが。
あの伯父が、長年にわたって、伯母と朔に暴力をふるっていたなどとは、にわかには信じられなかった。だが、実際に伯父と伯母は亡くなったのだ。
刃傷沙汰の末の放火だったという。つまり、無理心中だ。
事情が事情であるだけに、葬儀は朔と望たちだけでひっそりと行われ、そのすべてを蜂須が取り仕切った。そのことに、望は、そして多分、望の両親も違和感を持ったはずだが、誰も何も言えなかった。
親族でありながら、何年もの間、連絡さえ取っていなかったし、虐待の事実に気づきもしなかったのだから、他人のように扱われても文句など言えるはずがない。
朔に憧れを抱いていたくせに、電話一本かけることもせず、朔のことを知ろうともしなかった自分を、望は責めた。
両親とともに葬儀場に駆けつけると、朔は見知らぬ男性に付き添われていた。血の気のない顔をした朔は、最後に会ったときよりも背が伸び、頬がほっそりとしている。
男性が、望の父に名刺を差し出しながら言った。
「
マネージメント? 意味がわからず、望たち親子は顔を見合わせる。すると、蜂須が言った。
「朔くんの最近の活躍はご存じありませんか?」
その絵ならば、望も見たことがあった。儚げで美しい女性と月をモチーフにした、繊細で透明感のあるイラストだ。
人気作家の小説の表紙を描いたことがきっかけでブレイクしたというイラストレーターは、プロフィールを公表していなかったが、それが朔だというのか。そういえば、イラストレーターの名前は、たしかSAKU.Kとかいったはずだが、それを朔と結びつけて考えたことはなかった。
蜂須は、親族である望たちに向かって、慇懃に言った。
「本人の希望で、プロフィールは一切伏せています。くれぐれも、ご内密にしていただきますようお願いいたします」
話している横で、朔は一人、ふらふらとパイプ椅子に近寄って腰を下ろした。すかさず望は、彼に近づく。
「朔ちゃん、いったい何があったの?」
家が全焼し、朔の両親が亡くなったというのだ。すると朔が、ぼんやりと虚空に目をやったまま言った。
「あいつが、お母さんを殺した」
みんなの視線が、朔に集まる。朔がぽつりぽつりと話す内容は、あまりに衝撃的だった。
すらりと背が高くハンサムな伯父は、一流商社に勤め、センスのいい服に身を包み、いつもにこやかだった。そんな伯父と兄弟でありながら、ファッションセンスも教養もなく、食堂を営む父を持つ望は、ひそかに朔をうらやんでいたのだったが。
あの伯父が、長年にわたって、伯母と朔に暴力をふるっていたなどとは、にわかには信じられなかった。だが、実際に伯父と伯母は亡くなったのだ。
刃傷沙汰の末の放火だったという。つまり、無理心中だ。
事情が事情であるだけに、葬儀は朔と望たちだけでひっそりと行われ、そのすべてを蜂須が取り仕切った。そのことに、望は、そして多分、望の両親も違和感を持ったはずだが、誰も何も言えなかった。
親族でありながら、何年もの間、連絡さえ取っていなかったし、虐待の事実に気づきもしなかったのだから、他人のように扱われても文句など言えるはずがない。
朔に憧れを抱いていたくせに、電話一本かけることもせず、朔のことを知ろうともしなかった自分を、望は責めた。