第76話 自分を許せなかったこととブルームーンストーンと君への気持ち

文字数 1,087文字

 君がイラストレーターとしてデビューしたときは、とても驚いたし、うれしかったけれど、正直に言うと、少し寂しかった。君が遠くに行ってしまうようで。
 でも、君が描いた、あの月と女性の絵を初めて見たとき、すごくドキドキしたわ。恥ずかしくて、とても口には出せなかったけど、君がクリスマスイブに、あれは私だって言ったとき、あぁ、自惚れや勘違いじゃなかったんだって思って、とてもうれしかった。
 
 でも、ご両親が亡くなったのは、君がデビューして間もなくだったね。君が泣きながら電話をかけて来たとき、自分が取り返しのつかないことをしてしまったと気づいたの。
 どんな罰も受けようと思った。君が望むなら、本当にどんなことでもする覚悟だったわ。責められて当たり前だと思ったの。
 
 それなのに君は、こんな私のことを必要としてくれたね。君のためなら、ずっと君のそばにいようと思ったけれど、それは私自身が望んでいたことでもあった。
 とてもひどいことをしたのに、責められるどころか、自分が欲しかったものをたやすく手に入れることが出来るなんて、いつか罰が当たるんじゃないかと思っていたけれど、それがこの病気なのかもしれないね。
 
 君が告白してくれたことも、プロポーズしてくれたことも、とてもうれしかった。二人の関係を秘密にしたいと言ったこと、プロポーズにちゃんと答えなかったこと、ごめんなさい。
 世間体を気にしたこともあるけれど、それよりも自分を許せなかったの。君にひどいことをしたのは紛れもない事実なのに、そんな私が君に愛され、幸せになるなんて、ずうずうしいにも程があるわ。
 
 
 ここまで、思いつくまま書いて来たけれど、ずいぶん長くなっちゃったね。
 ここのところ体調がよくないので、お医者様の勧めもあって、入院して集中的に治療をすることになりました。多分、それで回復すると思うから、この手紙を君が読むことはないと思うけれど。
 
 今もずっと、君にもらったブルームーンストーンのペンダントを着けています。本当にきれいで、この石が大好き。
 半透明の石が放つ青い輝きを見ていると、とても心が落ち着きます。私の大切な宝物であり、お守りです。
 
 初めて会ったとき、中学一年生だった君が、今はもう、あのときの私の年齢を超えたのね。私が守りたいと思っていた君に、いつの間にか私が守られている。
 君に会いたい。君の顔が見たい。でもきっと、もうすぐ会えるね。
 影森くん、大好きです。ずっとずっと愛しています。次に会ったら、勇気を出して私からプロポーズします。
 こんなおばさんでよかったら、私と結婚してください。     菜月
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