第62話 立ち去る蜂須と問いただす朔と無性に腹が立つ望

文字数 709文字

 いくら聞いても、絵が描けなくなった理由を話そうとしない朔に、蜂須はしびれを切らせたように言った。
「野山先生には、君がここにいることを知らせるけど、それでいいね? それから、くれぐれも君のほうから野山先生に連絡を入れて謝っておくように」
 朔は、黙って頭を下げる。
「それと、望くん」
 いきなり名前を呼ばれ、望は驚いて蜂須を見た。
「ご両親が心配している。いくら朔くんと仲がいいからって、まさか君まで失踪していたとは思わなかったよ。
 君も、ご両親にちゃんと連絡するんだよ」
「望……」
 はっとしたようにこちらを見る朔の視線が痛い。
 
 
 契約解除のための書類は、必要事項を書き込んで郵送するように。そう言って、蜂須は帰って行った。
 ソファに座ったまま、どう言い訳をしようかと考えていると、蜂須を見送った朔が戻って来た。そして、さっきまで蜂須が座っていた場所に座り、両手の指を組んで望を見据える。
「どういうことか、説明してくれるかな」
「だって……。僕は、朔ちゃんと同じことをしただけだよ」
「それはそうだけど、別に望が叔父さんたちに黙っていなくなる必要はないだろ。叔母さんだって、どんなに心配して……」

 自分まで心配そうな顔をしている朔を見ているうちに、無性に腹が立って来た。
「だったら、朔ちゃんはどうなのさ。突然朔ちゃんがいなくなって、僕が心配するとは思わなかったの?
 いつものように食材を抱えて訪ねて行ったら、突然部屋が引き払われていて、僕がどれだけショックだったかわかる? 
 それとも、僕の気持ちなんてどうでもいいの? 僕は朔ちゃんにとって、その程度の存在なの!?
 話しているうちに、どんどん感情が高ぶって、涙まで出て来た。
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