第61話 喜びと感動で体が震えることとかわいらしい菜月とプロポーズ

文字数 883文字

 「そのとき」のことは、今までに頭の中で数え切れないくらいシミュレーションしたのだが、その場になると頭が真っ白になり、何をどうすればいいのか、まったくわからなくなった。結局、終始菜月にリードされ、なんとか最後までたどり着くことが出来た。
 無我夢中だったが、初めてのそれは恥ずかしさのほうが先に立ち、気持ちいいのかどうかも、よくわからなかった。ただ、少し汗ばんだ菜月の肌はなめらかで柔らかく、今まさに一つになっているのだと思うと、喜びと感動で体が震えた。
 
 
 暗い部屋の中で、ふと目覚める。いつの間にか眠っていたようだ。
 朔は今、菜月と二人、裸のまま温かいベッドの中にいる。菜月の静かな寝息が聞こえている。
 朔は考える。さっきのあれは、現実だろうか。それとも、すべては夢で、自分は今もまだ夢の中にいるのか。
 だが、たしかに今、先生はすぐ横で眠っている。自分は、ついに先生と結ばれたのだ。初めて会ったときから、ずっと大好きだった先生と。
 
 
 次に目覚めると、辺りは薄明るくなっていた。隣で、菜月が身じろぎする。
 その様子を見つめていると、やがて目を覚ました菜月が、あわてたように布団で顔を隠した。
「恥ずかしい。そんなに見ないで」
 朔は微笑む。
「もうたくさん見ました」
 布団の中から、くぐもった声がする。
「もう、嫌ね」

「先生」
「なぁに?」
「顔を出してください」
「嫌よ」
「先生……」
 菜月が、目から上だけをのぞかせた。その様子が、とてもかわいらしい。
 朔は、その目を見つめながら言った。
「先生、大好きです。結婚してください」


 別々にシャワーを浴び、トーストとコーヒーの朝食を取った後、早朝にマンションまで送ってもらった。朔は仕事が、菜月はこれから学校がある。
 あの後、布団から顔を出した菜月が言った。
「君が十八歳になったら、うぅん、二十歳になっても君の気持ちが変わらなかったら、そのときは結婚しましょう」
 朔はじれる。
「僕の気持ちは一生変わりません。何度言ったらわかってくれるんですか?」
 すると、菜月が優しく微笑んだ。
「君こそ、十六歳じゃまだ結婚出来ないってわかってる?」
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