第71話 たくさん食べて飲んだ後とろんとした目で朔に見つめられて顔が熱くなる望

文字数 728文字

 うつむいたまま答えない朔に、望は言った。
「仕事、相変わらず忙しいんでしょう? 出来上がったら呼ぶから、少し横になって休んだら?」
 少しの間があってから、朔が言った。
「うん。じゃあ、悪いけどそうさせてもらう」
 去って行く朔の背中を見ながら、望は思う。やはり、何かあったのだろうか……。
 
 
 だが、一休みしてすっきりしたのか、食事のときには、いつもの朔に戻っていた。
「へぇ、羽根つき餃子か。うまそう」
 心配していた望も調子を合わせる。
「羽根、パリパリだよ。うちの餃子は肉がたっぷりで、ニンニクとショウガもガッツリ入ってるんだ」
「おっ、いいね。ビールが進みそうだな」
「青椒肉絲もシャキシャキでおいしいよ」
「よし。今日は思いっきり飲むぞ」


 二人とも、たくさん食べて飲んで、望は店での失敗エピソードや、変わり者の友達の話をして、朔を笑わせた。朔が楽しそうにしているのを見ると、とてもうれしい。
 あらかた料理を食べつくした頃、テーブルに頬杖をついた朔が、とろんとした目で言った。
「あぁ、今日はちょっと飲み過ぎたな。すごくおいしかったし、楽しかった」
「よかった。僕も、すごく楽しかったよ」
 すると、朔が言った。
「なぁ望」
「うん?」

 朔は、望みの目を見つめて言う。
「いつもありがとう」
「何? そんな、他人行儀な」
 急に改まって言われると、なんだか照れくさい。
「いや、望がいてくれてよかったなぁと思って」
「朔ちゃん、今日はホントにどうしたの?」
「どうもしないよ。思ったことを言ってるだけだ」
 相変わらず、朔の視線は望に注がれている。望は、手のひらでパタパタと顔をあおぎながら言った。
「あー、顔が熱い。そんなに見つめられたら好きになっちゃうよ」
 朔が、ふっと笑った。
「馬鹿」
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