第29話 ますます熱くなる体と美術館と菜月からのプレゼント
文字数 1,012文字
朔は、駆け寄りながら言った。
「遅くなってすいません」
「うぅん、私も今来たばかり。それに、君も時間通りよ」
それから菜月は、朔のシャツに目を止めて言った。
「色合いが、なんだかペアルックみたいね」
「え……?」
朔が着ている下ろしたてのシャツは、ブルーと白のブロックチェックだ。自分のシャツを見下ろしながら、ますます体が熱くなる。
並んで駅に向かい、改札を通って電車に乗った。
菜月の日傘をたたむ仕草、うつむいたまつ毛の長さ、隣に並んで吊革につかまる二の腕の白さ……。その一つ一つに目を奪われ、胸がときめく。
菜月が連れて行ってくれたのは、住宅街の中にひっそりと建つ、小さな美術館だった。
「こんなところに美術館があるなんて、ちょっとわからないですね」
「隠れ家みたいで素敵でしょう?」
「はい」
入口に近づきながら、菜月が懐かしそうにつぶやいた。
「学生時代によく来たものよ」
朔は、ためらいがちに聞く。
「デート、ですか?」
菜月ほどの美貌ならば、今までに恋人の一人や二人いてもおかしくない。むしろ、いないほうがおかしい。
そう思った瞬間、胸がちくりと痛む。もしや、今も?
だが、菜月は笑って言った。
「いやぁねぇ、友達よ。絵画サークルに入っていて、そこの友達と来たの。女の子ばかりよ」
「そうですか……」
ぎらつく太陽やセミの鳴き声が嘘のように、美術館の中は、ひんやりとして、静寂に包まれている。今は、香堂黎という画家の個展が開催されている。
人もまばらな展示室で、菜月と並んで、一枚一枚ゆっくりと時間をかけて鑑賞した。どこか儚げな人物画は繊細な筆致で描かれ、菜月の雰囲気にも似ていて、感動したのと同時に、朔は創作意欲を掻き立てられた。
すべて見終わった後、菜月が、売店のガラスケースの中を指して言った。
「影森くんはどれが好き?」
香堂黎の絵画が、三枚セットの絵ハガキになって売られているのだ。
「えぇと……これかな」
菜月に少し似ている、髪の長い女性の絵が入っているセットを選んだ。
すると菜月が、カウンターの奥の女性に声をかけた。
「すいません。これと、これをください。別々に包んでいただけますか?」
「かしこまりました」
菜月が指したのは、朔が選んだセットと、三毛猫を抱いた少年の絵が入ったセットだ。そして、絵葉書を受け取って支払いを済ませ、出口に向かいながら、包みの一つを朔に渡した。
「はい。これ、私からのプレゼントよ」
「えっ?」
「遅くなってすいません」
「うぅん、私も今来たばかり。それに、君も時間通りよ」
それから菜月は、朔のシャツに目を止めて言った。
「色合いが、なんだかペアルックみたいね」
「え……?」
朔が着ている下ろしたてのシャツは、ブルーと白のブロックチェックだ。自分のシャツを見下ろしながら、ますます体が熱くなる。
並んで駅に向かい、改札を通って電車に乗った。
菜月の日傘をたたむ仕草、うつむいたまつ毛の長さ、隣に並んで吊革につかまる二の腕の白さ……。その一つ一つに目を奪われ、胸がときめく。
菜月が連れて行ってくれたのは、住宅街の中にひっそりと建つ、小さな美術館だった。
「こんなところに美術館があるなんて、ちょっとわからないですね」
「隠れ家みたいで素敵でしょう?」
「はい」
入口に近づきながら、菜月が懐かしそうにつぶやいた。
「学生時代によく来たものよ」
朔は、ためらいがちに聞く。
「デート、ですか?」
菜月ほどの美貌ならば、今までに恋人の一人や二人いてもおかしくない。むしろ、いないほうがおかしい。
そう思った瞬間、胸がちくりと痛む。もしや、今も?
だが、菜月は笑って言った。
「いやぁねぇ、友達よ。絵画サークルに入っていて、そこの友達と来たの。女の子ばかりよ」
「そうですか……」
ぎらつく太陽やセミの鳴き声が嘘のように、美術館の中は、ひんやりとして、静寂に包まれている。今は、香堂黎という画家の個展が開催されている。
人もまばらな展示室で、菜月と並んで、一枚一枚ゆっくりと時間をかけて鑑賞した。どこか儚げな人物画は繊細な筆致で描かれ、菜月の雰囲気にも似ていて、感動したのと同時に、朔は創作意欲を掻き立てられた。
すべて見終わった後、菜月が、売店のガラスケースの中を指して言った。
「影森くんはどれが好き?」
香堂黎の絵画が、三枚セットの絵ハガキになって売られているのだ。
「えぇと……これかな」
菜月に少し似ている、髪の長い女性の絵が入っているセットを選んだ。
すると菜月が、カウンターの奥の女性に声をかけた。
「すいません。これと、これをください。別々に包んでいただけますか?」
「かしこまりました」
菜月が指したのは、朔が選んだセットと、三毛猫を抱いた少年の絵が入ったセットだ。そして、絵葉書を受け取って支払いを済ませ、出口に向かいながら、包みの一つを朔に渡した。
「はい。これ、私からのプレゼントよ」
「えっ?」