第57話 蜂須の話と謝る朔と素っ頓狂な声
文字数 902文字
みながソファに腰を下ろすと、蜂須がおもむろに話し始めた。
「野山先生が、君のことをとても心配されて、先生に言われて捜索願を出したんだよ。でも、それじゃ埒が明かないことがわかって、先生のたっての希望で探偵事務所に依頼して、最近になって、ようやく君がここにいることがわかったんだ」
朔が静かに答える。
「そうでしたか」
蜂須の口調が変わった。
「そうでしたかじゃないよ。一方的に仕事を全部キャンセルして、行き先も告げずにいなくなるなんて、それがどういうことか、長年この仕事をして来た君ならわかるだろう?」
朔は頭を下げる。
「すいません」
「君のせいで、うちの会社も大打撃だよ。あのときは対応にてんてこ舞いだったし、信用はガタ落ちで、なんなら損害賠償してもらいたいくらいだ。
実際、そういう話も出たんだが、野山先生にそれだけは勘弁してやってくれって泣きつかれてね。まぁ、先生が新しい仕事を紹介してくれたりもしたし、君とも長い付き合いだし、うちも矛を収めたけど」
「申し訳ありません。それで許していただけるなら、僕はかまいませんが」
蜂須が苛立たしげに言った。
「野山先生の顔をつぶすようなことを出来るわけがないだろ。君だって、こんなことをして、まさかまた仕事に復帰出来るなんて思ってるわけじゃないだろうね」
望は、ただおろおろしながら二人のやり取りを聞いていることしか出来ない。朔が言った。
「仕事に復帰するつもりはありません。今後、絵を描くこともありません」
「なんだって?」
「ですから、今後、二度と絵を描くことはありません」
視線を落としたまま静かに話す朔に、蜂須が呆れたように言った。
「いいかい? 最初に話したように、私は今、野山先生の代理でここにいるんだよ。先生は、本当に君の絵に心酔しているし、君のことも息子のように思っていて、次回作の表紙も、ぜひ君に描いてもらいたいと言っている。
ほかの仕事はもう無理でも、野山先生だけは、また君を使いたいと言っているんだ。君に断る権利があると思うか?」
「ですが……」
しばしの沈黙の後、朔は言った。
「僕はもう、描けないんです」
「なんだって!?」
蜂須が、素っ頓狂な声を上げた。
「野山先生が、君のことをとても心配されて、先生に言われて捜索願を出したんだよ。でも、それじゃ埒が明かないことがわかって、先生のたっての希望で探偵事務所に依頼して、最近になって、ようやく君がここにいることがわかったんだ」
朔が静かに答える。
「そうでしたか」
蜂須の口調が変わった。
「そうでしたかじゃないよ。一方的に仕事を全部キャンセルして、行き先も告げずにいなくなるなんて、それがどういうことか、長年この仕事をして来た君ならわかるだろう?」
朔は頭を下げる。
「すいません」
「君のせいで、うちの会社も大打撃だよ。あのときは対応にてんてこ舞いだったし、信用はガタ落ちで、なんなら損害賠償してもらいたいくらいだ。
実際、そういう話も出たんだが、野山先生にそれだけは勘弁してやってくれって泣きつかれてね。まぁ、先生が新しい仕事を紹介してくれたりもしたし、君とも長い付き合いだし、うちも矛を収めたけど」
「申し訳ありません。それで許していただけるなら、僕はかまいませんが」
蜂須が苛立たしげに言った。
「野山先生の顔をつぶすようなことを出来るわけがないだろ。君だって、こんなことをして、まさかまた仕事に復帰出来るなんて思ってるわけじゃないだろうね」
望は、ただおろおろしながら二人のやり取りを聞いていることしか出来ない。朔が言った。
「仕事に復帰するつもりはありません。今後、絵を描くこともありません」
「なんだって?」
「ですから、今後、二度と絵を描くことはありません」
視線を落としたまま静かに話す朔に、蜂須が呆れたように言った。
「いいかい? 最初に話したように、私は今、野山先生の代理でここにいるんだよ。先生は、本当に君の絵に心酔しているし、君のことも息子のように思っていて、次回作の表紙も、ぜひ君に描いてもらいたいと言っている。
ほかの仕事はもう無理でも、野山先生だけは、また君を使いたいと言っているんだ。君に断る権利があると思うか?」
「ですが……」
しばしの沈黙の後、朔は言った。
「僕はもう、描けないんです」
「なんだって!?」
蜂須が、素っ頓狂な声を上げた。