第95話 ルームサービスと朝の挨拶とバスローブをまとった朔

文字数 798文字

 壁に立てかけておいた松葉杖を両脇に挟み、ベッドサイドまで行って、備え付けのメニュー表を手に取る。
「何にしようか。外から出前も取れるみたいだけど……」
 やはり答えはない。多分、今は食欲もないのだろう。
「あっさりと蕎麦かうどんにする? でも、それだと夜中にお腹が空いちゃうかな。えぇと……じゃあ、和定食っていうやつにする?」
「うん」
 朔は、相変わらずぼんやりしたままだ。望は、小さくため息をつく。
「二種類あるけど、炊き込みご飯に魚の西京焼きのと、ちらし寿司に鶏の竜田揚げのとどっちがいい?」
「うーん……」
「僕はちらし寿司にするけど、朔ちゃんも同じのにするか、それとも……」
「同じの」
「……わかった」


 料理を半分ほど残して、朔はまた寝てしまった。今日は思いもしなかったことが起こり、心も体も疲れ切っていることだろう。
 望も、治りきらない足で歩き回って、とても疲れた。もしも明日、朔の体調がよくないようならば、もう一日ここで休んでもかまわない。
 そう思って寝たのだが、翌朝、目を覚ますと、朔がバスルームから出て来たところだった。
 
 望は、横になったまま朔に声をかける。
「おはよう。早いね」
「おはよう。昨夜はずいぶん早く寝たからな」
 バスローブをまとった朔は、向かいのベッドに腰を下ろす。
「頭痛は治った?」
「あぁ。昨日は悪かったな」
「うぅん、全然」

 あんな話を聞いて、平気でいられるはずがない。そう簡単に気持ちの整理がつくはずもない。
 むしろ、シャワーを浴びて、やけにさっぱりした顔をしている朔を見て、意外な気がするくらいだ。今朝はまだ、ベッドの中でぐずぐずしているのではないかと思っていたのだが。
 そんなことを考えていると、朔が言った。
「何じろじろ見てるんだよ。俺、どこかおかしいか?」
 望はにやりとする。
「おかしくないよ。おかしくはないけど、バスローブ姿の朔ちゃん、なんかエロいなぁと思って」
「馬鹿」
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