第36話 あどけない表情と慣れた手つきで作る料理と望が泊まること

文字数 766文字

 中学生になった望は、背が伸びていたが、表情には小さい頃のままのあどけなさが残っていた。一緒にマンションに行くと言われたときは驚いたが、断る理由もないので承知した。
 相変わらず、彼は自由だ。初めのうちこそ殊勝な顔をしていたものの、すぐに自分のペースを取り戻したようだった。
 というより、心ならずも望の前で泣いてしまった気まずさから、すっかり望のペースに巻き込まれてしまったと言ったほうが正確かもしれない。望は何も言わなかったが、朔は、彼に初めて涙を見せたことが恥ずかしかった。
 
 夕食を作ってくれるというので、一緒にマンションのそばのスーパーに行くと、望は慣れた様子で、次々に食材をカゴに入れて行った。カレーかハンバーグでも作るのかと思ったら、煮物とブリの照り焼きを作るというので驚いた。
 慣れた手つきで料理を作る様子は、一人前の大人のようで、家庭科の授業以外に料理などしたことがない朔は、そのことにも驚いた。そして、料理の出来栄えと味にも。
「おいしい……。望、すごいね」
 素直な感想を言うと、望はうれしそうに笑った。


 驚いたのは、それだけではなかった。きれいに食事の後片付けをしてくれた後で、望は言った。
「今夜、泊めてもらってもいい?」
「えっ!?
「いいでしょう? 久しぶりに会ったんだし、この部屋、すごく広いから、僕一人くらい泊っても大丈夫だよね」
「でも、明日は学校だろ?」
 望は、にっと笑う。
「もう一日くらい休んでも問題ないよ」
「でも……」

 戸惑っていると、望が唇を尖らせた。
「僕が泊まると困るの?」
「いや、そんなことはないけど、布団がないし」
「なぁんだ、そんなことか」
 望は再び笑顔になる。
「だったら、そこのソファで寝るからいいよ」
「え……」
「タオルケットくらいあるでしょう?」
「まぁ」
「じゃあ貸してね」
「うん」
 ……あれ?
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