第16話 泣き出しそうな陽太と背を向ける朔と階段を下りるのが怖い望

文字数 793文字

 キッチンで、椅子に座ってジャガイモの皮をむいていると、バタバタと足音を立てて陽太が入って来た。望は、顔を上げて微笑みかける。
「掃除、終わったの?」
 だが、陽太は泣き出しそうな顔で言った。
「僕、どうしたら……」
「何? どうしたの?」
「僕、朔さんを怒らせちゃって……」


 望は、ドアをノックしながら声をかける。
「朔ちゃん、入っていい?」
 返事はないが、かまわずドアを開ける。朔は、ベッドの上で、こちらに背を向け、体を丸めて横たわっている。
 松葉杖をついてゆっくりと近づきながら言う。
「あー、階段上がるの、すごく大変だったよ」
 すると、ドアの外にとどまっている陽太が言った。
「すいません……」

「いいのいいの」
 振り向いて、陽太に微笑みかけてから、朔の背中に向き直る。
「朔ちゃん、話は聞いたよ。陽太くんが謝りたいって言ってるけど」
 朔は、こちらを見ないまま言った。
「その必要はない」
「でも」
 陽太が、おずおずと部屋に入って来ながら言う。
「さっきは、無神経なことをしてすいませんでした」

 だが、それには答えず、朔は言った。
「気分が悪いんだ。一人にしてくれ」
「朔ちゃん、朝ご飯は?」
「いらない」
「お茶かコーヒーだけでもどう?」
「いらない」
 望はため息をつく。
「わかったよ。でも、落ち着いたら下りて来てよね」
 そして、陽太を目顔でうながし、部屋を出る。
 
「どうしよう……」
 ドアが閉まるなり、陽太がつぶやいた。望は、片手を松葉杖から離して、ポンポンと彼の肩を叩く。
「大丈夫だよ。とりあえず、下でお茶でも飲もうか。てか、松葉杖をついて階段下りるの、めっちゃ怖いんだけど」
「僕のせいで、すいません」
 陽太は、再び泣きそうな顔になる。
「そんなに気にしなくていいって。でもさ、僕の前を下りて、もしも僕が転げ落ちそうになったときは受け止めてくれる?」
「もちろんです。全力で受け止めます!」
「ははっ、よろしくね」
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