第104話

文字数 1,096文字

 そう言うとその女性は麓の街に向かって手を振り下ろした。その瞬間、薬師如来像を囲っていた女の子たちが一斉に麓に向かって降り立っていった。その中にはアキやバルーザや、マノコ本体と戦ったマノコ達それにミランもいた。深雪が覗き窓から外を眺めると、細い光の線が何本も麓に向けて流れているのが見えた。その光は美しく虹色に輝き夜空を彩っていた。
 暫く眺めていると、麓の街の建物や道路、人々までが光を放ち全体が太陽のように明るく輝き、やがて光を失っていった。そしてまた麓の街はいつも通りの静寂を取り戻した。
「さて、あとは貴方だけですね。」
 そう言うと、後ろにいた薬師如来の半眼の目が見開き、レーザー光線のように光が一直線にモヤ本体に向かって照射された。その光がマノコ本体に届くとアッサリと消し飛び、霧散した。
 全てを終えた薬師如来像は元の本堂に戻り、光も優しくなった。ミラン達も本堂に戻っていった。
「これで終わりです。」
 女性は龍告寺の境内に向き直り言った。優しい目で境内を眺めて照らされている。
「遊里子…」
 通玄はその女性に亡き妻を見たようだった。
「通玄さん。貴方は悪くありません。貴方は何よりも強く愛してくれました。貴方の愛は本物です。さぁ。」
 通玄は差し伸べられた手に向けて自分の手を差し出した。通玄の体が浮き上がりユックリと女性の胸元に入っていった。二人の顔は優しくコバトを見つめている。
「コバト。またいつかあなたを迎えに来るその日まで、あなたはあなただけの誰よりも美しく、幸せな人生を送りなさい。私たちはそのことだけを願っています。」
 そう言うと二人の影は光の中に吸い込まれ消えていった。
 龍告寺の境内にまた静寂が訪れた。
 コバトは松の木の下で頬に一本の涙の跡を残して力強く立っていた。
 慶長、良観、恵の三人は合掌し、ブッケンの三人はただぼんやりと空を眺めていた。
 ふと我に帰った亮介は恵に駆け寄った。
「ありがとうございます。どうやら解決したみたいですね。」
 恵は微笑んで
「そうね。これで一安心ね。」
 と優しく答えた。
「ところで恵さん。少し気になることがあって…」
「何?」
「コバトちゃんを連れてきた時、確か恵さんは男だったら[こうして]女の子に優しくしろ!って言っていましたよね。」
「うん。言ったよ。」
「あのぉ、もしかして、恵さんは…」
「あっ、バレた?私の名前は織田恵瞬。残念ながら男だ。」
 龍告寺は代々男子が二人必ず生まれる。一人は子を産み、龍告寺を継ぐが、もう一人は子には恵まれない。
 亮介は胸に秘めた想いが儚く散っていくのを感じた。
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