第94話

文字数 586文字

静けさにみんなが慣れだした頃、その空気を切り裂くように
「おーい、外見てみろよ。面白いモンが見られるぞ」
 門の外側から部長の声が聞こえてきた。読経をやめ、
「お前の言葉になんかに騙されたりするか!」
 通玄が大声で外に向かって叫ぶ。
「いいから。見てみろよ。お前達が外見るまで何もしないから。約束するよ」
「何を言ってる!」 
「おー、だんだんいい感じになってきたぞ〜」
 通玄は暫く考えた。そして、良観を呼んだ。
「外を見ろと言ってるが」
「ん?罠か?」
「いや、わからん。」
「どうする?」
「今は門も叩いてない。どうだろ?俺が一応後ろで援護しておくから、窓から覗くか?」
「ああ。そうするか」
 通玄は一歩下がった。
 門扉に付いている人の顔ほどの小さな引き戸の小窓を開けて良観は外を覗いた。屋根から落ちる雫と奥に続く暗闇が目の前に広がっているだけだった。
「特に変わった様子はなかったか」
「馬鹿かお前たちは。そこから見える麓の景色を見てみろ」
 部長の声が響いた。
「麓の景色?」
 龍告寺は山の中腹に建っている。普段はこの窓から麓の景色がよく見える。夜になるとそれは美しい夜景が広がる。特に柊山側の商業施設や官公庁が立ち並ぶエリアは明るく色とりどりの光を放っている。翔陵川を境に綱領山側は住宅街だ。
 良観はもう一度小窓に顔近づけて少し目線を下に落とした。
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