第29話

文字数 1,009文字

「部長はいつもこんなのだよ。ところで、そんなことよりもその中川が体験した龍告寺の話だけど、それは信託系の話ね。まぁ、今まで無いわけではないけど。特に、夢のような現実のような体験をした人の話ならいくらでも残ってるわ。それに、その夢が誰かから託された系の話ならキリストとか神の信託系ね。でも、あくまでも伝承とか言い伝えレベルでハッキリとした確証が得られたものはほとんどないね。中川は去年のあの中学生事件の事覚えてる?」
「あの事件って、隣の中学三年生の男の子がカッターナイフで自分の両親をメタメタに突き刺して逃亡したやつ?」
「そう。あの時はこの街中が大騒ぎになったでしょ。テレビ局や新聞や雑誌の取材で大変だったじゃない。でもね、犯人の男の子は活発で家庭での問題もあまりないごくごく普通の男の子だったって、ありきたりで表層的な部分しか報道されていなかったよね。」
「うん。俺もあの時の事はすごく覚えてるよ。いたって普通の中学生が両親を襲うなんてなかなか考えられないから。確か思春期特有の気持ちの揺れ動きがあの事件を起こしたって話になっていたと思うのだが。それにまだ犯人の中学生は見つかってないんだろ。未成年だし、報道規制が敷かれたって聞いたぜ」
「実はあの話には少し気になるところがあって、報道もされていなくて私たちだけが知っている事なんだけど、実はあの時私の地元でその男の子の友達だっていう子がいて、その子が言うにはあの男の子は事件を起こす一週間位前からものすごく食欲が旺盛になったんだって。以前ならそんなにたくさん食べるような子じゃなかったんだけど、急に三人前とか四人前のお寿司 とかお弁当を食べだしたんだって」
「それって、一番よく食べる時期だからじゃないの?」
「普通はそう思うじゃない。でもねその時その男の子はなんか変なこと言ってたらしいよ」
「変なことって?」
「なんかね、これは食べるものこれは食べないものこれは食べるんだけど食べられないものって。なんか取り憑かれたようにブツブツ言いながら。」
「それって誰かに憑依されてるってこと?」
「それで私の友達は事件を起こす前にその男の子と話したらしいのね。そしたら、その男の子は変な夢の話をしてきたんだって」
「変な夢?」
「毎晩夜になると夢で誰かに食べる事を命令されるようになったんだって。それって絶対に誰かから信託されてるんだよ。中川の話と似てるじゃん。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み