第75話

文字数 588文字

「コッチは事情聴取やら検証やらで忙しいんですから。それに社長はこんな時に限って出張だし」
 後ろには厳つい銀色の消防服を着た男と制服の警察官がついて出てきた。
「とにかく、大事にならなくて良かった」
「気をつけてくださいよ」
 二人の男はそれぞれに言うべきことを言った。その度に部長は
「ハイ。申し訳ありません」
 とペコペコと頭を下げた。
「では、我々はお店の周りを点検したら戻りますので」
「ハイ。どうもご迷惑をおかけしました」
 部長は消防士と警察官を外に見送りに出た。
 店の中から窓ガラス越しにまだ頭を下げている部長が見える。
 この騒ぎがひと段落ついても、今日の営業は無理だろう。ここは早く退散した方が良さそうだ。もともと、今日はシフトが入っていない日だし。
「さぁ、はやく帰るか」
 と亮介はブッケンの三人に声をかけた。深雪が
「帰る前に、龍告寺に寄ってもらえない」
 と言ってきた。
「いいけど、何で?」
 亮介は尋ねた。
「うん。ほら数珠が壊れちゃったじゃない。だから新しいの欲しくて。それに、少し気になることがあって」
 深雪はそう答えながら左手の手首を見せた。深雪の左手首にはクッキリと数珠の形でアザが残っている。
 亮介たちはパートのおばさんたちへの挨拶もソコソコに店を出た。
 龍告寺までここからバスと電車で約二十分。雨はまだシトシトと降っている。
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