第79話

文字数 1,181文字

 四人は亮介の顔を見た。
「俺?んなわけないだろ?何で俺がキャリアーになるんだ!」
「いや、でも、あの中で一番マノコに詳しく、操れそうな人は中川しかいない」
 深雪の目がどんどん険しくなっていく。
「待て待て、俺じゃないって」
「…中川くん…」
「うぉーい、門田まで!それよりも、これを見てくれ」
 亮介は話をそらすためにも、胸ポケットのブレイドを机の上に置いた。今は、冷たく、半透明の楕円形だ。
 このブレイドを手に入れた経緯を事細かに亮介はみんなに話した。
「ほう。しかし、私はこのようなものは持ち合わせていません」
 亮介は龍告寺の慶長ならマノコを感じ取れるし除霊までできるので、何らかのヒントをもらえるかと思ったが、期待はずれの答えにすこし肩を落とした。
「我々は厳しい修行を幼き頃から行ってきています。謂わば、マノコ退治のエキスパートになる訓練を積んできました。しかし、亮介さんはごくごく普通の人です。我々のような修行は積んでおられません。そのような方がマノコと関係を持ってしまうと、簡単に取り憑かれてしまうでしょう。きっと、ミランが何らかの特命を授かって亮介さんにこれを渡したのでは」
 亮介はブレイドを眺めている。やはり、変化はない。
「それより、早く本堂へ参りましょう。深雪さんに残されているマノコを祓わなければなりません。どうやら、先客もお帰りになられるようです」
 慶長は立ち上がり、深雪の手を引き本堂へつながる出入り口へ向かった。亮介はブレイドを手に取り後をついていった。
 本堂は寺務所からの明かりで意外なほど明るかった。
「おいおい。何だ。バタバタと騒々しい」
 良観が野太い声で寺務所から出てきた五人を眺めた。
 慶長は慌てた様子で深雪の手を引き、薬師如来像の前まで連れてきた。
「本当に申し訳ないです。お客様の前で不躾なのはよくわかっているのですが、なにぶん一刻を争うことですので」
 慶長は通玄に向かって頭を下げた。深雪もそれに釣られ頭を下げた。通玄はその場を避け、本堂の端に退いた。深雪が顔を上げ、通玄と目があった。そのとたん
「あー!ど変態のオヤジ!」
 と叫んだ。
 暖かい目で五人の若者を見てた通玄の目が困惑の表情に変わった。
「何だ?何のことだ?」
 深雪は通玄を指差して
「皆!コイツだ!コイツが昨日私に声かけたおっさんだ!」
 と言った。亮介は
「はぁ?何だって!何で龍告寺にいてるんだよ」
 通玄はますますわけがわからない。
 深雪は引かれていた手をほどき、通玄の前までツカツカと歩み寄った。
「あんたね、忘れたとは言わせないよ!これを見なさい!」
 深雪は左手首を通玄の前まで持ち上げた。
 通玄の目の前には、火傷の跡のような丸い傷跡が並んでいる細い女子高生の手首がある。
「?」
 通玄は訝しげに首をかしげた。
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