第40話

文字数 812文字

 慶長の肩を借りて、おぼつかない足取りでやってきた亮介の顔面は蒼白になり、目の焦点は全く合っていなかった。亮介は腹部の嫌悪感に加え、頭痛も出ていた。こめかみをグリグリと太いボルトをねじ込むような痛みが数秒おきに襲ってくる。その太いボルトは自分の心臓の鼓動の早さに合わせ、右に左にギリギリと回され涼介の脳味噌を絞り上げる。
「ここですか。少し調べてみましょう。」
 慶長が右手に持った数珠を商品にかざしながらゆっくりと歩いて回った。慎重に一歩一歩確かめるように慶長は冷蔵棚を調べた。一往復をした帰り際に慶長の足が止まった。
「こ、これは!」
 慶長は持っていた数珠を上下に動かし、パックに詰められた絹ごし豆腐の上にゆっくりと置いた。
「…マノコです。」
 慶長の黒い数珠は赤く光り出した。
「この商品の中のどれかにマノコが取り憑いています。」
 慶長は二列二段に並び、高さの揃えられた十個はある絹ごし豆腐を一つずつ手に取り調べ出した。
「どこでしょう。どこにいるのでしょう。」
 さっきまで黒かった数珠は、赤くその光は増しているようだった。
 慶長が上段一番奥の豆腐を手に取り引き寄せた時、亮介の吐き気は最高潮に達し、意識は途切れそうになった。
「コレですね。」
「ちょ、ここで…は…」
 薄れていきそうにになる意識の中で、亮介は初めて会った時の除霊を思い出していた。あの『鈴なり茄子の辛子漬け』の時のように大騒ぎで除霊を始めてしまっては駄目だ。最悪警察沙汰にまでなってしまう。
「吉岡、ここでは…ダメ…。店の外に出して。」
 最後の力を振り絞るように亮介は深雪に言った。
 深雪は慶長の手から絹ごし豆腐を奪い取りレジへ走った。
「袋いりません。お金は後で来る人が払います。」
 バーコードを通してもらった絹ごし豆腐を両手に店の外に飛び出した。
 続いて慶長がレジを通過しようとした時、店員に袈裟の首筋を掴まれ呼び止められた。
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