第53話

文字数 1,215文字

 門田部長の見解は、深雪の現実的かつオタク心理を鋭くえぐるような意見の前にあえなく撃沈した。
 気持ちを改めて亮介は一番気になっていることを思い切って切り出して見た。
「なぁ、お前たち三人は見えていたのか?」
 亮介は自分が見えているミランの事や、食霊と呼ばれるあの真っ黒い霞が他の誰かにも見えているのか確認が取りたかった。
 深雪は
「見えてるって?中川の調子が悪くなってたのは見えてたけど?」
「いや、それじゃなくて」
 目の前で起きた物理的な現実の出来事は認知できている。しかし、亮介が聞きたいことはそんなことじゃない。亮介のような幽霊や超常現象には懐疑的で詳しくもない一般的な人間には信じられないような出来事がブッケンの三人には見えていたのかどうかという事だ。
「さっきのスーパーでなんか変なものとか見なかったか」
「変なもの?」
 深雪に視線を送っていたので深雪が答える。
「たとえば、視界が急に曇って見えたとか」
「ん?」
「小さい女の子が武装して飛び回ってるとか」
「はぁ?アホですか?中川が悶絶して気持ち悪いなぁって思ったくらいで、ほかに変わったことなんか何も見えなかったけど?」
「他の二人は?」
 門田も西村も頭の中にはハテナマークが揺れているようだ。
「やっぱり」
「・・・やっぱりって・・・何ですか?」
 門田が突っ込んできた。
 亮介はこの中で一番突っ込んできて欲しくない人間に興味を持たれて、少し面倒くさいと思いつつも、この問題を一人で抱え込むのは自分のメンタル的に耐えられそうになかった。
「いや、俺の体調が悪くなったあたりから、実は俺、見えてたんだよね」
「ん?・・・見えてたって?」
 門田の視線は次の展開に期待している目をしていた。
「いや、だから」
 亮介はゴクリと生唾を飲み込む音がしたように思えた。
 周りを見渡せば、他の二人もこちらを凝視している。
「あのスーパーに入った時は、別に何とも無かったんだよね。でも、みかん飴のあたりで急に体調が悪くなっちゃって。」
「・・・はい・・・承知しています・・・」
「それから、一つだけモヤのかかった真っ黒いみかん飴を見つけたんだ」
「ほう。だから中川はピンポイントであの大量にあったみかん飴の中から問題のあるやつを見つけられたのね」
 深雪が割って入る。
 亮介は正直ホッとした。
 門田や西村よりは深雪の方が幾分話はスムーズに進められそうだ。
「そうなんだ。あのみかん飴の色を覚えてるか?」
「いえ、私には普通のみかん飴にしか見えなかったけど」
「じゃぁ、その後の武装した女の子の姿も見えなかった?」
「はぁ?女の子?そんなの見えるわけないじゃない!そんな子いたら中川の体調どころじゃなくなるよ。武装してんでしょ?面白すぎるじゃん。一気に興味はそっちにいくよ。体調悪すぎて幻覚でも見たんじゃないの」
 深雪はバカにするような口調になっていた。
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