第25話

文字数 1,486文字

 吹奏楽部のラッパの音が遠くから聞こえてくる。毎日の気だるい授業が終わって、開放感に溢れている、放課後の独特の雰囲気が亮介はあまり好きではない。特に土曜日は明日が休みなのも含めて開放感がいつもよりも増す。私立のこの高校は進学校として土曜日も特別授業と銘打ち普通に午前中だけ授業がある。今日は金曜日、明日はその土曜日だ。
 亮介もクラブには入っていた。高校入学時点ではサッカー部に所属はしていたが、いつまでたっても基礎練習ばっかりで一向にボールを触らせてくれないサッカー部に嫌気がさしていち早く辞めてしまった。
 帰宅部の亮介はこのまま家に帰ってゲームかバイト先まで直行がいつものパターンだ。
 しかし、今日はいつもと少し違う。
 埃っぽく、すえた臭いのする廊下に亮介は立っていた。コンクリートむき出しでで出来たこの建物は、薄暗く外よりも少し肌寒く感じる。
 クラブ棟と言われる二階建てのこの建物は、全てのクラブの部室が並んでいる。主に一階は運動系のクラブが練習道具や忘れ去られたかのような私物が置かれている。
 亮介は日曜日の龍告寺の出来事がどうしても気になっていた。この一週間はフワフワした気分で授業も上の空だった。
 クラブ棟の一階の1番奥は天井につけられた弱い蛍光灯の光も届かず、ただでさえ薄暗い建物の中でも特別に暗く、ここから闇をつくり出しているかのように感じる。コンクリートの壁には等間隔に並べられた鉄のドアが冷たく冷えていた。
 人の侵入を拒むかのような雰囲気に亮介は少しばかりの緊張を感じた。
 亮介が立っているドアの前には「日本寺社仏閣研究同好会」と小さなプラスチックのプレートに書かれていた。通常、新しいクラブは同好会期間が設けられている。それから、一年後クラブが存続できると学校側が判断したならその同好会は晴れて正式なクラブと認められる。
 しかし、「日本寺社仏閣研究同好会」は同好会のままだ。この同好会はかなり歴史は古く、学校の創立時点からあるらしい。毎年の学校案内のパンフレットには必ず文化部の最後に書かれている。そしてテンプレートのようにカッコつきで(活動日は毎週金曜日)と書かれっぱなしになっている。しかし、クラブへの昇格はされていない。この同好会は学校側から忘れられているようだった。
 亮介はドアノブに手をかけた。ひんやりとした感触とともに、案外簡単に滑らかに扉は開いた。
「すみません。誰かいませんか?」
 亮介はソロリソロリとこえをかけてみた。
「………」
 返事はない。
「すみません」
 もう一度声を出してみた。
 やはり返事はない。
 亮介は部屋の中に一歩足を踏み入れてみた。
 打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた部屋の中は薄暗く、たった一つの蛍光灯で照らされている。
 左手の壁には三段仕様の事務用の棚が備えてあった。その胸の高さほどの棚にはドクロや虫や十字架、使いさしの蝋燭、あとコケシやどこから持ってきたのか、端切れなどが乱雑に置かれていた。1番下の段には「超・超常現象」や「骨法」や「実録・日本のシャーマン達」といった文庫本や雑誌「ムー」などが整然と並べられていた。
 壁にはどこかの旅行会社のものだろう。大きな鳥居が写され「伊勢志摩へ」と書かれたポスターが貼られている。
 部屋の真ん中にはコタツが置かれていて、その天板には一つのコーヒーカップと「竹生島 琵琶湖に浮かぶ神の島」という本が乗せられていた。
 ここは学校の敷地内である事を忘れてしまうかのような、明らかに私物化されているこの部屋に亮介は面食らっていた。
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