第38話

文字数 648文字

 門田はもう肩で息をしている。
 西村は何も言わない。いや、言えなくなっている。
 ふとその時、亮介には見慣れた影が見えた。
 ちょうど精肉コーナーからお菓子の棚に向かって歩いてくるスーパーマルカツの営業部長がいた。部長はキョロキョロと辺りを見回し、何かを警戒しているようだ。
「あれ?部長」
「おお、これはこれは中川くん」
「何やってるんですか?」
「いや、何って、偵察ですよ。偵察。」
「偵察って」
「ここのスーパーは我々のライバル店ですよ。どんなところに力を入れて、どんなところが弱いのか見ておく必要があるでしょ。あと特売品とかも現場でチェックしなきゃ。」
「まさか、部長毎日偵察してるんですか。」
「そ、そんな訳ありませんよ。たまにね。たまに。」
「なんか焦ってません?」
「な、な、何いってるんですか。あああ、焦ってなんかいませんよ。」
「いや、怪しいですよ。もしかして、部長もマルカツに見切りをつけるとか?」
「バカなことを言ってはいけません!私がそんな事するはずがないでしょう。もう行きます。今日のシフトは夕方からでしたよね。早く来てくださいよ。ただでさえ人が足りなくて大変なんだから。」
 部長は足早にその場を立ち去って行った。
 それから五人は、最後の棚である調味料コーナーにやってきた。
 そこでも同じように棚を凝視するが、何も変わったような様子はない。
「うん、やはりここも空振りですな。ま、空振りの方がいいんですけどね。」
 少し残念そうに慶長は背中を伸ばしながら呟いた。
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