第63話

文字数 1,000文字

 敷居を跨いだところで、亮介は声をかけてみた。
「コバト…ちゃん?」
「………」
 返事は無い。
 コバトは部屋にあるたった一つの窓に目を向けている。花の蕾が太陽の方角に向くように、コバトは月明かりが夜を照らしている窓の向こう側を見ているようだった。
 遅れてやってきた慶長が部屋の電気をつけ、敷居の向こう側で様子を伺っている。
 亮介がもう一歩部屋の中に踏み込んだ。静かな畳が軋む音がした。その時、胸の辺りが熱を持ち光を放ちだした。ブレイドが亮介の胸ポケットから飛び出した。慌てて亮介はそのブレイドを両手で掴んだ。ブレイドは虹色に輝き、まぶしく部屋全体を明るく照らした。熱は思ったほど熱くなく、両手からその温度が優しく伝わる。続いてミランが亮介の目の高さに浮かんできた。
「うわー。これはまたすごいエネルギーですね。これはきっと、ご主人様が持ってらっしゃるとてつもないポテンシャルでございますよ。」
「突然目の前に現れて、何を言ってるんだミラン。」
「このブレイドは、近くにあるマノコエネルギーと反応していろんな光に輝くんです。その光が多ければ多いほどエネルギーは大きいということなんです。しかもこんなにたくさんの色がある。このエネルギーは凄いものだと思いますよ。」
「いやいや、俺まだマノコとかお前とか完璧に受け入れられていないんだけど。」
「すぐに慣れますって。」
 そう言ってミランはコバトの正面にふわふわと浮遊していた。
「ああ、もうお目覚めになってますね。あなたがコバト様ですね。以降よろしくお願いします。」
 ミランはペコリと頭をさげた。
「ご主人様、こちらへいらして下さい。コバト様の目が開いてますよ。」
 促されるまま、亮介はコバトの向かい側に移動した。
 改めてコバトの顔を見ると、肌は抜けるように白く真っ赤に染まった口元は小さく閉じられて、小ぶりな鼻とキリッと上を向いた眉毛が美しかった。その大きな目は焦点が合わず右目は閉じたままで、左目だけがパッチリと開けられていた。瞳は薄いグレーでその瞳がコバトの境遇をより仄暗く印象付けていた。
「外はまだ暖かいの?」
 焦点の合わない目で、コバトは小さく呟いた。
「もう夜だよ。少し肌寒いかな。」
「ふーん。でももうすぐしたらこの辺は厚い雲に覆われて大粒の雨になるわ。その前に早く準備を急がなきゃ。」
 亮介は何のことかわからなかった。
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