第68話 理由

文字数 1,281文字

 次の日の放課後、亮介はブッケンの三人に呼び出されていた。
 相変わらず、薄暗い部室は静まり返り少し涼しかった。
 遠くで、サッカー部が大きな声を出して練習しているのが聞こえる。
 いつものようにこたつに足を突っ込んだ三人は、神妙な面持ちで亮介を見ていた。
「どうしたんだよ。急に呼び出して。」
 亮介は昨日の龍告寺での出来事は誰にも話さないように決めていた。不安を煽ってはいけないし、この三人を危険には危険にはさらしたくなかった。
「昨日あれから私たちは手分けしていろんなお店を回ったのね。もう夕方だったから、数は限られていたけど。どこにも数珠は反応しなかったわ。そのあと私たちは近くの公園で落ち合った。もう暗くなっていたし結局何にも得るものはなかったので帰ろうとしたんだよね。そしたらね、公園のベンチで座っていたおっさんが私たちに声をかけてきたの。そのおっさんね、その数珠は誰にもらったんだ!って、私の手を掴んできたの。もうねー、めっちゃキモくて」
 深雪は手首の数珠を見せながら顔をしかめた。
「で走って逃げてきた。」
「で?それが何?」
「何って。おかしいと思わない?こんな数珠だよ。今時珍しくもなんともないじゃん。それに気づいて興味を示すなんておかしいと思わない?」
「まぁ、確かにな。でもそれならなんで逃げてきたんだよ?」
「だって気持ち悪いじゃない。いきなり変なおっさんに声かけられるんだよ。それに一緒にいた男子はこの人たちだし。」
 門田と西村はバツの悪そうな顔をしている。
「で俺に何の用?」
「それでね、昨日のおっさんを一緒に探してくれないかなと思って。」
「えー、嘘だろ?なんで俺が!」
 亮介は呆れた顔でブッケンの三人を見た。

 夕方の空はどんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうな雰囲気だった。五月の割に妙に湿った空気を感じる。
 深雪が変なおっさんに声をかけられたという公園は小高い丘の上にあった。この街は龍告寺がある綱領山と柊山の間に挟まれて翔陵川が流れている。綱領山の標高は高く険しい。それに比べ柊山は比較的緩やかで、綱領山側より柊山側の方が発展している。どちらかというと、綱領山は住宅街で、柊山側は商業施設や官公庁が多い。より多くの食品を求めて橋を渡って行くうちにこの辺りまで来てしまったのだろう。この公園は柊山側に位置する。
 あれからよくこんなとこまで来たもんだなと、亮介は感心した。ブッケンの集中力は時として距離や体力をも超えてしまうようだ。
 トラック用のスペースがあるコンビニの駐車場くらいの広さのこの公園は低いフェンスに囲まれ、周りにジャングルジムやブランコ、砂場といった遊具がある。それらを挟むように小さなベンチが二、三。球技をさせないためであろう。広い広場の真ん中に街灯が一つポツンと立っている。
 この街灯の下で深雪は男に声をかけられた。
「さて、そのおっさんはどんな服装だったの」
 亮介はまず容姿を聞いた。
「服は全身黒で足元は汚れていた。何か派手なリュックを背負っていて、少し疲れていたみたいに感じた」
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