第58話  目覚め

文字数 360文字

 空はもう真っ黒になり、明るい月明かりがその周りの星々の存在を消している。
 今夜の月は殊更に大きく明るい。何億年もの時間をかけてようやくたどり着いた星々の光は、最も近くにある衛星を照らす太陽光により儚く消滅してしまう。クレーターの一つ一つまではっきりと見えるほど存在感のある月は、地面に照らされた男の影をより濃く映した。
 男の眼下には麓の町の明かりがもう目の前に迫っていた。
 さっきまで歩いていた足元はもう随分前からアスファルトに変わっている。地面は歩きやすくはなっているが、この日まで歩き続けた膝が痛む。
 道の両側には倉庫のような建物が忘れ去られたかのように朽ち果てていた。周りには草木が鬱蒼と生え、時折吹く風にトタンの壁がコンコンと音を立てている。
 ようやく、ゴールが見えた。男の足取りも少し軽くなった。
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