第46話

文字数 926文字

 その時、亮介の胸ポケットがうっすらと光り、膨らみ、中から魚鱗甲をまとった女の子が長い槍を手に飛び出してきた。
「ミラン!」
 亮介はその女の子戦士に向かって声にならないほどの小さな声で叫んだ。
 このマノコを慶長から預かった時から、マノコと呼ぶのも気が引けて、亮介は呼び名を決めていた。
 ミランは槍を空中で構え、「甘露、みかん飴」に向かって急降下していった。そして
「はぁっ!」
 と一言発してその長い槍をみかん飴に突き刺した。
 すると、みかん飴のパッケージから黒い煙のようなものが立ち上った。ミランは突き刺した槍をそのまま上にえぐるように持ち上げた。ミランの手元から伸びる紅い槍が大きくしなる。その槍の先には黒いモヤが絡まっていた。ズルズルと槍に持ち上げられて行く。
 ミランがそのモヤとともに跳ね大きく飛び上がると、空中で旋回した。
 モヤがミランにまとわりつく。それでもミランは旋回をやめない。それどころか、その回転速度をどんどん上げていった。
 モヤの隙間からチラリと覗くミランの顔は凛々しく、動きはしなやかで目の前の敵を睨みつけている。
 まとわりついたモヤは何重にも重なり、ミランの姿をその中に隠してしまった時、みかん飴のパッケージからモヤが抜け切った。
 しばらくそのモヤはクルクルと回り続けたか、次第にそのスピードは緩くなり、ピタリと止まってしまった。それは、黒い綿埃の塊のように見えた。その次の瞬間、みかん飴のパッケージに向かってその塊が猛スピードで落下していった。空中に尾を引き加速していく。先端の形は、流線形から鋭さを増し針のように尖りだしている。加速が最高潮に達した時みかん飴のパッケージに着地した。
「キューイッ」
 と形容しがたい音を立て、黒い綿埃はひしゃげみかん飴は空中に跳ね上がった。そしてまぶしい光が「甘露、みかん飴」を包み込んだ。一瞬時が止まったかのような静寂があたりを覆った。それからモヤが散り散りに拡散した。徐々に霧が晴れるようにみかん飴のパッケージが鮮やかなオレンジ色に変わっていく。その上に、槍をパッケージに突き刺したミランが一人立っていた。
「ふぅ。終わりました。」
 ミランが顔を上げて微笑んだ。
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