第80話

文字数 1,065文字

 亮介は深雪に小声で
「お前の手首にはもう何も付いてないぞ。てか数珠の形の火傷痕を見せてもどうなるもんでも無しに」
 と伝えた。
 深雪は手首をもう一度確認した。深雪はど変態のおっさんを見つけて、とぼけるようなら動かぬ証拠的に数珠を見せるつもりだった。そのシュミレーションは昨日から繰り返してきた。数珠を見せれば思い出す!これが証拠だ!と。しかし、今、肝心の数珠が無い。スーパーマルカツで壊れたまま放置してきてしまった。
 急に自分のことが恥ずかしくなってきた。
「にゃんか、しゅみましぇん」
 深雪は顔を真っ赤に染めてソソクサと手首を引っ込めた。
「はっはっはは。」
 良観が大きな声で笑いながら
「まぁ、賑やかでよろしい。んで何しにきたんだ?」
 と聞いた。
「それが、マノコに…」
 深雪が答えようとした時、突然横から
「君はもしかしてマノコと接触したのか」
 通玄が慌てた様子で聞いてきた。
「あ、はい。」
 その勢いに気圧されたのか反射的に深雪は答えた。
「やっぱり。じゃぁその手首の傷跡は」
「先ほどマノコと接触した時にできた傷跡です」
「君からほんの少しだがマノコの気配がする。早く除霊しなければ」
 通玄は懐から長い数珠を取り出した。
「あ、ここは私が」
 慶長が遮ったが
「慶長は補助だ。この子に憑いてるヤツはかなり特殊だ。何というか、今まで感じた事ない、増殖率がとてつもなく高いヤツだ。この子をキャリアーにさせようとしているんじゃないのか。それが証拠にホラ」
 通玄は深雪の手を掴んだ。深雪の左手首の傷跡はどす黒く変色し、数珠の形の丸い跡ではなく、一本の太い痣のように巻き付いていた。
「吉岡!お前!何ともないのか?」
 亮介はその手首を見て叫んだ。
「いや。別に。痛くもないし。何にも感じないんだけど。むしろ何だか愛おしく感じてるよ」
 深雪は左手首を優しく撫でた。深雪の手首の痣がジワジワと広がっている。手首より先、手のひらはもうほとんど赤黒く染まっていた。指先は赤みを帯び、この先は黒く変色することが想像できた。腕のほうは肘の手前まで真っ赤に染まりながらその進行を止めることはなかった。肉眼でもハッキリと分かるスピードで侵食は進んでいる。この赤黒い痣はものの数分もしないうちに深雪の身体を覆ってしまうだろう。
「まずい。もう侵食が始まっている」
 通玄は持っていた数珠を深雪の肩にかけ、まるで止血をするかのようにキツくねじり絞り上げた。
「なんだか気持がいいなぅぅぅ。」
 深雪は恍惚の表情に変わった。
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