第87話
文字数 1,154文字
大きな音を立てて閉じられた扉に気づき部長は振り向いた。部長は一瞬顔を強張らせたがすぐに何事もなかったかのように
「なんだ中川くんじゃないか。どうしたんだい?そこにいたんなら声をかけてくれよ」
と微笑んだ。
「やっぱり部長だったんですね」
亮介の目は部長を非難するかのような鋭いものになっていた。
「おかしいと思っていたんですよ。最初の違和感はスーパーたかむらだった。あなたはスーパーたかむらに偵察だと俺に言った。そして、絹ごし豆腐にマノコが憑いていた。そこで気がつくべきだったんだ。でもあの時は俺の体調を戻したい一心でそれどころではなかった」
「何を言っているんだ?」
「緒方さんが教えてくれた。緒方さんは特別に空気を読むひとだ。緒方さんが調理場にいた時の悪寒は部長だったんです。」
「いったい何の話をしているんだ!ボヤの後片付けや休まなければならないハメになってコッチは疲れているんだ!」
部長は声を荒げ怒鳴った。
「あなたはさっきなぜ食パンの袋が破れる心配をしたんですか?あそこはパンコーナーだけじゃなく、ドリンクや乳製品も置いてある。それなのにあなたはピンポイントで食パンと言った」
「さっきの話か?だからなんだ」
「あなたはまだミランが俺の元に戻る前に食パンを見た。つまり、あなたにはミランが見えていた」
亮介は確信を持って言った。部長の表情が険しくなった。
「そして、俺には見えるんです。その灰皿の中が」
亮介は机の上に置かれた灰皿の中の黒い綿埃を指差した。部長も灰皿に目をやる。
「やっぱり、そうですよね。見えてますよね〜」
部長が灰皿を両手に持ち立ち上がった。フラフラユラユラと体を揺らしながら部長は亮介に近づいてくる。
亮介は身構えたが、それと同時に今まで感じたことのないような悪寒が全身を駆け巡った。背中のあたりがゾクゾクとし、背骨を凍らせる。胃の中は金属の棒でかきまぜられるような感覚になり、心臓は激しく鼓動を打った。亮介の周りの空気は重く澱み、その空気を吸った肺は張り裂けそうになるほど大きく膨らんだ。頭痛と立ちくらみ、眼窩の痛みそれに強烈な耳鳴りが亮介を襲った。
「どうしましたか。非常に体調が悪いようですが」
部長は両手に灰皿を持ったまま、ゆっくりと近づいてきている。灰皿の中では得体の知れない棉埃のような黒いものがウネウネと波打つ。
亮介は、膝から力が抜けていくのが分かった。小さなドアノブに手をかけ何とか体制を保つのが精一杯だった。
このままこの場所にいては危険だ。そう悟った亮介は肘の裏側でドアノブを回し、這うように事務所から出た。
膝はガクガクと震え、悪寒は続いている。地面に転がりながら部屋を出た亮介はみんなが待っている調理場の向こうを目指した。
「なんだ中川くんじゃないか。どうしたんだい?そこにいたんなら声をかけてくれよ」
と微笑んだ。
「やっぱり部長だったんですね」
亮介の目は部長を非難するかのような鋭いものになっていた。
「おかしいと思っていたんですよ。最初の違和感はスーパーたかむらだった。あなたはスーパーたかむらに偵察だと俺に言った。そして、絹ごし豆腐にマノコが憑いていた。そこで気がつくべきだったんだ。でもあの時は俺の体調を戻したい一心でそれどころではなかった」
「何を言っているんだ?」
「緒方さんが教えてくれた。緒方さんは特別に空気を読むひとだ。緒方さんが調理場にいた時の悪寒は部長だったんです。」
「いったい何の話をしているんだ!ボヤの後片付けや休まなければならないハメになってコッチは疲れているんだ!」
部長は声を荒げ怒鳴った。
「あなたはさっきなぜ食パンの袋が破れる心配をしたんですか?あそこはパンコーナーだけじゃなく、ドリンクや乳製品も置いてある。それなのにあなたはピンポイントで食パンと言った」
「さっきの話か?だからなんだ」
「あなたはまだミランが俺の元に戻る前に食パンを見た。つまり、あなたにはミランが見えていた」
亮介は確信を持って言った。部長の表情が険しくなった。
「そして、俺には見えるんです。その灰皿の中が」
亮介は机の上に置かれた灰皿の中の黒い綿埃を指差した。部長も灰皿に目をやる。
「やっぱり、そうですよね。見えてますよね〜」
部長が灰皿を両手に持ち立ち上がった。フラフラユラユラと体を揺らしながら部長は亮介に近づいてくる。
亮介は身構えたが、それと同時に今まで感じたことのないような悪寒が全身を駆け巡った。背中のあたりがゾクゾクとし、背骨を凍らせる。胃の中は金属の棒でかきまぜられるような感覚になり、心臓は激しく鼓動を打った。亮介の周りの空気は重く澱み、その空気を吸った肺は張り裂けそうになるほど大きく膨らんだ。頭痛と立ちくらみ、眼窩の痛みそれに強烈な耳鳴りが亮介を襲った。
「どうしましたか。非常に体調が悪いようですが」
部長は両手に灰皿を持ったまま、ゆっくりと近づいてきている。灰皿の中では得体の知れない棉埃のような黒いものがウネウネと波打つ。
亮介は、膝から力が抜けていくのが分かった。小さなドアノブに手をかけ何とか体制を保つのが精一杯だった。
このままこの場所にいては危険だ。そう悟った亮介は肘の裏側でドアノブを回し、這うように事務所から出た。
膝はガクガクと震え、悪寒は続いている。地面に転がりながら部屋を出た亮介はみんなが待っている調理場の向こうを目指した。