第84話 仲間

文字数 1,379文字

 さっきまでサラサラと降っていた雨は、今やもう本降りとなっている。
 慶長の運転するワゴン車は高校生四人を乗せて雨の夜道を急いでいる。ワイパーは激しく動き、フロントガラスに当たる夜雨を蹴散らしている。
 深雪はもうすっかり意識を取り戻し、体調に異常はなくしっかりと回復している。自分がマノコのキャリアーになりそうだったということもあまり現実感は無いようだ。
 亮介達は、大雨の中帰すのはダメだということで、慶長に送ってもらうことになった。慶長はそれぞれの家にまで確実に送り届けることを良観と約束して龍告寺を出たが亮介は途中にスーパーマルカツに寄ってもらうように申し出た。
「それは構いませんが。大丈夫ですか?もう随分遅いですけど」
 慶長が心配したが亮介には確かめておきたいことがあった。
「うん。すぐに済むことだから。これからのバイトのシフトとかちゃんと確かめておきたいんだ」
「そうですか。それならばすぐに済みそうですね。ではまずはスーパーマルカツに寄ってから皆さんをお送りしますね」
 異論はなかった。それから数分、激しさを増す雨の中亮介達を乗せたワゴン車はスーパーマルカツに向かって走り出した。五人を乗せたワゴン車の車内ではほとんど会話らしい会話はなされなかった。五人はほとんど無言で窓の外の降りしきる雨を眺めていた。
 スーパーマルカツの駐車場は車五台ほどがおける小さな駐車場だ。配送のトラックもこの駐車場を利用するので実質は三台分ぐらいしか確保ができていない。当然今日は営業ができていないので駐車場に止めている車は無い。慶長は駐車場の一番手前に車を滑り込ませた。
「さて着きましたよ」
「じゃぁ俺一人でちょっと確認してくるね」
「いやちょっとお待ちください。さすがに亮介さん一人で行かせるにはいきません。ココはマノコ騒動があったばかりの場所ですよ。私もついていきます」
 亮介は暫く考えたが、
「そうかそれならばついてきてくれるか」
 そう言ってみんなを見た。運転手が降りるとなるとエンジンが切られた車の中にとどまる事は少し憚れたのか、ブッケンの三人は
「僕たちも…ついて…いく」
 と門田の一言で全員で行くことに決まった。
 通常、従業員や関係者は裏の通用口から出入りすることが決められていたが、今回は慶長やブッケンのメンバーがいる。亮介は店の入り口から行くことに決めた。
 激しい雨の中駐車場から入り口までの数メートルで亮介達ははびしょ濡れになった。亮介達は店の入り口の小さな庇の下で体にまとわりついた水分を払った。雨音がけたたましく、地面を叩く。
「それにしても、随分ひどい雨ですねぇ」
 慶長が呆れたように夜空を見上げながら呟いた。
 庇のすぐ下に付いている自動ドアのセンサーを見ると運転中を表すグリーンのランプがついている。
 自動ドアを抜け店の中に入った。
 店内は全ての電気が灯され明るかったが、お客さんは一人もいない。閉店業務後と同じようにお惣菜の棚や、精肉棚にはシートがかけられ、いわゆる箱物の商品はきれいに正面が揃えられていた。
 亮介達が龍告寺に行っている間にすべての後片付けは終わられていた。亮介は閑散とした店の中を迷うこともなく奥のクロークの方へ向けて歩き出した。その後ろから慶長、深雪、少し遅れて門田、西村と続いた。
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