第31話

文字数 589文字

 二人が並んで松の木の下まで歩いて行くと、門田と坊主頭の西村明夫が支えあいながら門をくぐって来た。
「…はぁはぁ。…こんなに…辛いとは。」
「部長〜、もう、僕は歩けません。」
「…僕もだ。西村くん。…これ以上は…」
 二人はボロボロになっていた。
「はぁ、情けない。」
 深雪はぼそりと呟いた。
「オイいいのかよ。随分と疲れ切ってるぞ。」
 亮介は少し心配したが
「いいよ。ほっといて行きましょう。」
 と本堂に向かって歩き出した。

 線香の匂いが漂う本堂の中は涼しく外の風の音さえ届かないくらい静まりかえっていた。
「不思議な仏像ね。」
 深雪は薬師如来を眺めて言った。
 手にコロッケ、足元には各種の魚たちが置かれた皿の上に乗っている薬師如来立像は優しく柔和な表情でこちらを眺めている。
「うん。なんかねここの寺は変なんだよ。でも由緒は正しいみたいだよ。」
「へー。俄然興味が湧いてきた。」
 深雪は薬師如来との距離を詰めて、舐めるように凝視した。
「薬師如来さまね。てことは、両脇に居てるのは日光月光菩薩ね。」
「さすが、ブッケン。よくわかったな。俺なんか違和感だけでただの仏像としかわからなかったのに。」
「…この…仏像は…」
 門田の消え入りそうな声が背中越しに聞こえてきた。
「…どう…いう…」
「部長、あまり無理しちゃダメですよ。まだ体力は回復していません。」
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