第48話 武器

文字数 314文字

 辺りには枯れ枝を踏む乾いた足音と、男の衣摺れだけが漂っていた。
 山を一つ超えてきた男の足元は足首まで泥にまみれ、下りの山道を滑らないよう慎重に歩いていた。
 普段の山道は獣の呻きや小鳥のよく通る澄んだ声、幾万匹もの虫の羽音があらゆる角度から聞こえているものだが、まるでこの男の行く先を全ての生き物が固唾を飲んで見守るように今は静寂に包まれている。
 時折吹く風にサラサラとした葉の揺れる音だけがこの空間が現実のものである事を証明していた。
 男は日の傾きを確認するために顔を上げた。正午を少し過ぎたあたりか、太陽は地面に小さな陽だまりを作っている。
 男は焦る様子もなく、ゆっくりと確実に足元を確認するように歩みを進めた。
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