第13話
文字数 1,105文字
亮介の目の前には不思議な森が広がっている。
どうやらここはその森の入り口らしい。草むらからまるで測ったのように巨木が左右に整然と立ち並んでいる。
巨木の列は遠く、遥か地平線まで伸びていた。
森の奥はまったく見えない。こちらも遥か彼方に巨木が生い茂っている。
「こちらへ来てください」
森の奥からか細い女の声が聞こえた。
「早く、こちらへ来てください」
もう一度その声は聞こえて来た。
亮介は不思議な感覚になっていた。この声は、耳に聞こえているのではなく、心の中に直接語りかけているような、声と脳の間に何も通していない極めて純粋な声に聞こえた。
亮介はその森に無意識に足を踏み入れた。
「俺は呼ばれている。」
森の中はひんやりと暗く、光らしい光は木陰に隠されてほとんど届いていない。所々に木漏れ日が足元に光の塊を落としている。見上げてみても緑の葉の天井は分厚く、何重にも重なり合っていた。基本的に薄暗い森の中をゆっくりと進んでいく。
足元には腐葉土になりかけの落ち葉や虫の死骸が幾十にも重なり合ってフカフカとしている。
今の亮介に靴はない。靴下もない。裸足でその不安定な柔らかさを感じていた。
幾本かの巨木をやり過ごした後、亮介は立ち止まり、周りを見渡した。
相変わらず森の中はひんやりとしている。寒いというわけではない。涼しいという表現も少し違う。静寂のなかに何か一本の鋭い刃が通っているような冷たく凛とした空気が漂っている。
しかし、不思議と恐怖心はなかった。むしろ、暖かい真綿に包まれているようなそんな安心感すらあった。
「なんて気持ちのいい所なんだ。このままここにいてもいいかも。」
亮介は何とも言えない居心地の良さに浸っていた。
後ろを振り返ると、先ほど佇んでいた入り口の光は遠く小さくなっていた。
前を向くと、そこは森の奥に続く薄暗い緑と茶色の空間がある。
亮介はふと足元を見た。木漏れ日が丸い光の輪を作っていた。よく見ると亮介の足ほどの大きさの光の輪は転々とまっすぐに森の奥に向かって伸びていた。
薄暗く、光もあまり入ってこない森の中の小さな木漏れ日はキラキラと輝き亮介を誘うようだった。
「この光は何だろう」
亮介はその光の輪に導かれるように歩みを進めた。
フカフカの地面は歩きにくく、時折足元がおぼつかなくなって、バランスを崩しそうになる。しかし、あきらかに倒れそうになるような体の傾きも、ここでは不思議と転倒するまでには至らなかった。まるで、地面そのものが亮介の体の傾きを察知し、それとは逆方向に傾いて空間自体が亮介を転倒させないでいるようだった。
どうやらここはその森の入り口らしい。草むらからまるで測ったのように巨木が左右に整然と立ち並んでいる。
巨木の列は遠く、遥か地平線まで伸びていた。
森の奥はまったく見えない。こちらも遥か彼方に巨木が生い茂っている。
「こちらへ来てください」
森の奥からか細い女の声が聞こえた。
「早く、こちらへ来てください」
もう一度その声は聞こえて来た。
亮介は不思議な感覚になっていた。この声は、耳に聞こえているのではなく、心の中に直接語りかけているような、声と脳の間に何も通していない極めて純粋な声に聞こえた。
亮介はその森に無意識に足を踏み入れた。
「俺は呼ばれている。」
森の中はひんやりと暗く、光らしい光は木陰に隠されてほとんど届いていない。所々に木漏れ日が足元に光の塊を落としている。見上げてみても緑の葉の天井は分厚く、何重にも重なり合っていた。基本的に薄暗い森の中をゆっくりと進んでいく。
足元には腐葉土になりかけの落ち葉や虫の死骸が幾十にも重なり合ってフカフカとしている。
今の亮介に靴はない。靴下もない。裸足でその不安定な柔らかさを感じていた。
幾本かの巨木をやり過ごした後、亮介は立ち止まり、周りを見渡した。
相変わらず森の中はひんやりとしている。寒いというわけではない。涼しいという表現も少し違う。静寂のなかに何か一本の鋭い刃が通っているような冷たく凛とした空気が漂っている。
しかし、不思議と恐怖心はなかった。むしろ、暖かい真綿に包まれているようなそんな安心感すらあった。
「なんて気持ちのいい所なんだ。このままここにいてもいいかも。」
亮介は何とも言えない居心地の良さに浸っていた。
後ろを振り返ると、先ほど佇んでいた入り口の光は遠く小さくなっていた。
前を向くと、そこは森の奥に続く薄暗い緑と茶色の空間がある。
亮介はふと足元を見た。木漏れ日が丸い光の輪を作っていた。よく見ると亮介の足ほどの大きさの光の輪は転々とまっすぐに森の奥に向かって伸びていた。
薄暗く、光もあまり入ってこない森の中の小さな木漏れ日はキラキラと輝き亮介を誘うようだった。
「この光は何だろう」
亮介はその光の輪に導かれるように歩みを進めた。
フカフカの地面は歩きにくく、時折足元がおぼつかなくなって、バランスを崩しそうになる。しかし、あきらかに倒れそうになるような体の傾きも、ここでは不思議と転倒するまでには至らなかった。まるで、地面そのものが亮介の体の傾きを察知し、それとは逆方向に傾いて空間自体が亮介を転倒させないでいるようだった。