第95話

文字数 708文字

「んな!」
 良観は息を飲んだ。
 小降りになった雨の向こう側に広がる麓の景色はいつもと様子が違っていた。綱領山側の住宅街の至るところで黒いモヤが天に向かって伸びていた。よく見ると奥側の柊山方面も黒いモヤが幾筋も伸びている。
 厚い雲に覆われいたせいで月が出ていないからではない。街は普段よりも暗くモヤの筋が邪魔をして街の光が届いてこない。まるで麓の街が同時多発テロの爆弾によってあらゆるところから黒煙が上がっているかのように見える。
「これはどういうことだ?」
 門扉の向こう側で部長が話しかけてきた。
「見えたか。どうだ美しいだろう。長い年月をかけて俺はゆっくりと俺の仲間を増やしていった。今夜遂に復活の時だ!クソのような人間どもが取り込んでいった俺の分子達が今夜ついに覚醒したのだ!」
 振り返ると庇の下で休んでいた五人がいた。
「何がどうしたんですか」
 良観を押しのけ次々と五人が窓の外に目をやる。外の景色を見た亮介、慶長、そして深雪は言葉を失った。
「ワッハッハ。よく見ろ俺はこの瞬間を二百年間待っていたんだ!」
 麓の街では魑魅魍魎が跋扈し阿鼻叫喚の地獄絵図を描いている。人々は皆狂い凶器を手に殺し合いが始まっている。あらゆるところで火の手が上がり、人々は逃げ惑っていることだろう。
 緊急車両のサイレンはけたたましく、街中を飛び回っているが、その数は到底追いつくわけもなく目の前の事象に対処することが精一杯であった。
「なんで…こんなことが」
 深雪は跪き涙を流した。慶長が震える声で言った。
「許せない」
「ミラン!」
 亮介はミランを叫んで呼んだ。懐から出てきたミランはフワリと亮介の前に現れた。
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