第37話

文字数 826文字

 しかし、今は見渡すかぎり混んでいるようには思えなかった。きっと別の意味がそれぞれあるんだろう。スーパーの仕事はレジだけではなく品出しから掃除、検品まで意外とたくさん用意されている。この曲が、このスーパーでどういう意味を持っているのかはわからないが、突然BGMが変わったということは、何かしらの仕事が発生したということだろう。
 五人は冷蔵コーナーを見終わり、店内をぐるりと一周したことになる。特に冷蔵庫関係は妙な気配など感じることなく普通のスーパーのようであった。
「特に何もありませんね。」
 慶長が四人に話しかけた。
「皆さんのご念珠にも何も反応はありませんよね。」
 ブッケンの三人は右手に付けた数珠を確認してみた。特に何も変化はなかった。
「ではこちらの方へ行ってみましょう。」
 慶長は中棚に向かって歩き出した。
 中棚は背中合わせに三列で、冷蔵コーナーから見て左からラップやビニールや洗剤などの雑貨、真ん中はお菓子やカップ麺が、そして一番右側は醤油などの調味料や酒類が置かれていた。
「やはり最近のマノコは生の食材には取り憑かない傾向にあるのですね。最近は加工品によくマノコの気配を感じます。と言う事は、やはり一番怪しいのはこのコーナーですね。」
 慶長はお菓子コーナーにずんずんと進んでいった。
 今日一番の真面目な顔で慶長はお菓子の並んでいる高さ2メーターにも満たない棚をじーっとにらみつけた。
 その横で、慶長を囲むように四人が同じようにお菓子の棚を覗き込む。
 じー、じー、じー。
 五人はいつしか腰を曲げ顔を棚にくっつく位まで近づけていた。
 息を止め、背中に力が入り、両手を置いた太ももは固く両足に力が入った状態でしばらく動かずにいた。
「…っんーん…ここも何もないですかね。」
「ふぅー、こんなに力が入ったスーパーでの買い物なんか初めてだよ。」
 深雪が肩の力を抜きながら吐き出すように言った。
「…はぁ、はぁ、僕も…です」
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