第55話

文字数 730文字

「それも、当時の中学生が仲間の気をひきたくて嘘でしたと後から証言してる。それよりも、私は土地神説を唱えるね。」
「ああ、なるほど」
「中川は、触れてはいけない何かに触れてしまったのよ。それで、その土地の神様が怒ったの」
「・・・その線は・・・考えられません・・・あそこは・・・普通の土地ですし・・・スーパーを建てる時に必ず地鎮祭・・・してる・・・」
「そうですよ」
 西村がまた意見を変える。
「・・・西村くん・・・君は・・・さっきから・・・どちらの味方に・・・」
「いやぁ、・・・」
 西村は消え入りそうな声を出し肩をすぼめた。
「とにかく、これについてはもっと調査が必要ね」
 そう言うと深雪は広げていた地図をもう一度見つめ直した。
 ブッケンの三人は地図に向かってまた何やら話をしだした。
 亮介は寄る辺のなさを感じ、その輪から少し離れた。
 五月の風が川の水面に小さな波を作り、広い土手に爽やかな土と若草の匂いを運んでいた。
 亮介は胸ポケットからミランを取り出して見る。
 ミランはスヤスヤと眠っている。
「こいつも実態はないんだな」
 小さく呟いた。
 ある一定の能力がある人間には見えるが、普通の人には全く見えないこの少女を掌の上で眺めていると、ますます不思議な感覚になる。
 ミランに重みは全くない。空気のようだ。だが、彼女の形やサイズは感覚的に理解できる。だから、こうして胸ポケットから取り出すこともできるし、掌の上に乗せることもできている。ミランは確実に存在している。このことは、紛れもない事実で彼女が亮介を守ってくれたという出来事も現実に起きたことだ。
 亮介はふと何気なく時計をみた。日の傾きは夕方とはっきりと言える時間になっていた。
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