第65話

文字数 565文字

「今お茶をいれますね。」
 慶長が寺務所の奥にある棚に手を伸ばした。
 寺務所の入り口から一番近い椅子に腰掛け、亮介は本堂に目をやった。寺務所から見る本堂は暗く、薬師如来の左右にある献蝋の炎がぼんやりと光っているだけであった。
「そういえば、今日恵さんは?」
 背中を向けている慶長に亮介は聞いた。
「病院に行ってます。何やら今日は大切な日らしくて。」
「恵さんどこか悪いの?」
「いやどこか悪いというわけではなく、ちょっとした検査みたいなものですよ。」
 慶長はお盆に湯飲み茶わんを乗せ、慎重に運んできた。
「まぁ私にはよく分かりませんがね。」
 亮介は湯飲み茶碗を受け取り一口お茶をすすった。ほどよい温度の緑茶の甘みが口いっぱいに広がった。鼻から抜けるその香りは気分を落ち着かせた。
「少しお時間よろしいですか?」
 慶長が神妙な面持ちで亮介に聞いてきた。
「ん?別にこの後の時間は大丈夫だけど」
「良ろしかったら少し見てもらいたいものがあるのです」
「見てもらいたいもの?」
「はい。これはきっとこれからの亮介さんに物凄く重要なことになるかも知れません」
「何だろう?」
「とにかく、少し席を外します。失礼します。」
 そう言うと、慶長は席を立ち寺務所から出て言った。
 一人取り残された亮介は改めて寺務所の中を見回した。
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