第78話

文字数 1,433文字

 さらさらと煙る雨に龍告寺の鐘楼門は、街灯に照らされ所々を鈍く光を反射させながら濡れたところは色が濃くなっていた。鈍い反射と重たい色がこの寺の荘厳さを物語っている。門は閉じられていたが、亮介たちは慶長に連絡を取り、門の横についてある小さな勝手口から境内に入っていった。
 弱い雨に濡れた二本の松の木は本堂から漏れるほんの少しの明かりと、薄くもやのかかった月明かりで黒い影を作っていた。境内に敷き詰められた玉砂利はほどよく水を含み、歩くたびにその水を押し出してリズムよく足跡を作っていった。
 本堂の前で慶長が傘を手に待っていた。
「雨も降ってきましたね。こんな日に慌てて数珠なんか。明日でもよかったじゃないのですかね?」
「そうなんだ。俺も明日でいいじゃないかと思っていたんだけど、どうしてもって。それに、マノコとさっき戦ってきたから」
「え?マノコが出たのですか?どうでしたか?まさか、亮介さんが?」
「いや、俺は見ていただけで、ミラン達が助けてくれた」
「ミラン達?」
 慶長は一瞬考えたが、
「まぁ、立ち話もなんですから、どうぞおあがりください」
 と慶長は本堂に上がり、中には入らず回廊を通って直接寺務所に亮介たち四人を招き入れた。

 寺務所は相変わらず整理整頓が行き届き、書類でいっぱいになった本棚は歪んでいたがキッチリとファイリングされている。しかし、書類の数が多いのか今にも倒れてきそうなバランスでギリギリ保たれている。
 本堂に面した机の上には書道道具やパンフレット、小さなお守りや朱印の見本などが緑の書道用下敷の上に置かれ本堂の薄い光にぼんやりと浮かんでいる。
「本堂はお客さんがいらっしゃるのでここでお話をいたしましょう」
 寺務所の真ん中にある大きなダイニングテーブルを囲むように五人は座った。
「んで、どうなさいましたか?」
 慶長は勤めてゆっくりと話を促した。
 亮介はスーパーマルカツでのボヤ騒ぎから、食パンに憑いていたマノコの話をできるだけ細かく話した。真剣な眼差しで亮介の話を聞いていた慶長は深雪を見て
「深雪さん、あなたが気になります。あなたは、大量のマノコと接触されたのでは?微量ですが、あなたからマノコの気配を感じます」
 慶長は深雪の目を見た。
「もしかしてこれ?」
 深雪は両手を机の上に置いた。深雪の左手首にはまだハッキリと数珠の跡が残っている。慶長は深雪の手首を掴みじっくりと眺めた。
「あぁ、なるほど。これは、かなり強烈ですね。こんなにハッキリと現れることは今まで見たことがありません」
「痛みとか熱なんかは感じられないの」
「そうでしょう。もう粗方除霊は終わっています。しかし、取りこぼしですかね。ほんの微量ですが、気配が感じられます。最も、この寺には結界が張られているので下級のマノコがワルさを働こうにも出来やしませんがね。最初にマノコを感じたのは深雪さん、あなたでしたね」
「はい。私の数珠が熱くなってはめていられなくなりました」
「多分その時点で、マノコはターゲットをあなたに絞ったのではないでしょうか」
「私がマノコに狙われたのですか」
「いえ。マノコに意思はありません。マノコはその辺を漂っているだけです。ですが、キャリアーが近くにいると、そのキャリアーの意思で取り憑く相手や植物が決められます」
「えっ?じゃあ、マルカツにマノコに取り憑かれたキャリアーがいてるということ?」
「恐らくは」
「誰だよ」
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