第103話

文字数 850文字

「さっ、行って。」
 恵は優しくコバトの背中を押した。コバトはゆっくりと境内の真ん中のあたりにある松の木に向かって歩き出した。
 その光景をぼんやりと眺めていた亮介も何かに導かれるように松の木に向かって歩き出していた。
 本堂に向かって左側にコバト、右側に亮介がそれぞれの松の木に向かって歩みを進めている。コバトの首には小さな水晶玉がペンダントのようにぶら下がっていた。
 亮介の手にはブレイドが握られている。
 二人が松の木の下にたどり着いた。
 亮介は持っていたブレイドをコバトの胸に向けると、 水晶玉から細い一本の光が放たれた。その光の筋が亮介のブレイドにたどり着くとその光を反射させ、また水晶玉に返した。
 まるでお互いが会話を交わしているかのように呼応し合う水晶玉とブレイド。その光の反復が徐々に太い光となって龍告寺のすべてを照らし出した。
 光が最高潮に足した時、上空の雲が割れ太陽のような明るい光が現れた。その光の中には大きな女性が立っていた。その女性の頭には冠が被られ美しい装飾がなされていた。胸元からはシンメトリーな首飾りが輝き優しく微笑み、両手を広げていた。
「よく頑張りましたね。コバト。もうあなたは何も心配しなくてもいいですよ。」
 慈しみの声でその女性はコバトに話しかけた。
 亮介にはその声に聞き覚えがあった。初めて龍告寺を訪れ、コバトのゲロをかぶり、慶長に除霊をしてもらった時、夢に出てきたあの声だ。
 コバトの目から一筋の涙がこぼれた。
「亮介さん。約束通りコバトを守ってくれてありがとう。私は皆さんを助けにやって参りました。」
 亮介は優しい気持ちになり多幸感に包まれた。
「では、参りましょうか。」
 その女性は本堂に向かって両腕を上げ広げた。すると、本堂の屋根を突き破り、太く猛烈な光の矢が天に向かって伸びていった。その中には、何人もの甲冑に身を包んだ女の子に囲まれた龍告寺の本尊の薬師如来像が浮かんでいた。
「薬師如来様のご命により、悪なるものを消滅せん。」
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