第99話

文字数 754文字

 部長の口は限界を超えて大きく裂け、顎は完全に関節を外れ奥歯が頬の肉の間からのぞいていた。滴り落ちる血液。目からは涙がこぼれ落ち、鼻からも液体が滲み出ていた。しかし、それらは全てどす黒く蛇のようにうねっていた。
 バルーザとアキが左右に分かれて、部長の裂けた頬肉から口の中に剣を突き刺さした。
「グフッ!」
 部長の唸り声が短く聞こえた。やはり、出口のあたりはまだ柔らかい。完璧に二人の剣は獲物を捕らえた。
 その瞬間、鋼鉄のように硬かった液体はブワッとモヤの形に変わった。と同時にニッポの弓矢が雨霰のようにバルーザとアキの体を貫いた。
「ぎゃー!」
「キャー!」
 二人は断末魔の声を上げた。ニッポが霞越しにその様子を見ていた。
「アキ!バルーザ!」
 ニッポは攻撃をやめたが、時はすでに遅かった。モヤはすぐに液体に変わり、モヤの中に入っていたニッポの弓矢を、ニッポに向けて吐き出した。ニッポは逃げることも許されず、自らの弓矢が身体中に突き刺さった。
「ウワーッ!」
 ニッポの体は仰け反り、足の裏から背中まで弓矢の餌食となってしまった。
 残されたミランとルーシャは部長の口元だけを見ていた。
「みんなが教えてくれた弱点!絶対に引きずりだしてやる!」
 部長の口元目掛けて突っ込んでいく。鋼鉄の液体はすぐに臨戦態勢を整えた。鋭く光った爪の形になった鋼鉄の液体はミランとルーシャに向けて勢いよく伸びてくる。
「もうそのスピードは見切りました!」
 二人はその攻撃を見事に避け、あと数センチのところで槍を構えた。あと少しで、口元に届く。ルーシャは剣を振りかざしミランは槍を腕ごと長く伸ばした。部長の口元はもう目と鼻の先だ。
 カキン!
 虚しい金属音が鳴った。ミランとルーシャの攻撃は弾かれた。
「んな?」
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