第3話

文字数 1,220文字

奇声は益々大きくなっていく。それと同時にバイクの揺れも大きくなっている。
 たまらず亮介はバイクから飛び降りた。
 すると亮介のバイクの後ろに、左手は二本指を立ててその指に長い数珠をかけて、右手はバイクの荷台をつかんでいる黒い袈裟を着た僧侶が立っていた。
 その僧侶はバイクの後ろに付いている荷台を引きちぎらんばかりの勢いで揺らしていた。
「おい!なんなんだよ!」
 慌てて亮介はその僧侶に声をかけた。
「話しかけないでいただきたい。気が乱れてしまいます。」
「いや、いや。アンタ何やってるかわかってるのか?」
「無礼も承知!しばしの時間です。お許しいただきたい。きぇーっ!」
「いやいや、待てるか!ハゲッ!何やってるんだよ!警察呼びますよ!」
「警察っ!」
 僧侶の動きがピタッと止まった
「…それはマズい。だがしかし、コイツはかなりの大物で…いや、待て、これは…。」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ。アンタ何やってるんだ!わけがわからない。」
 亮介はその僧侶の肩に手をかけて、強引にバイクから引き離そうとした。
「お待ちください!」
「アホか。待てるか。」
「いや、待って。」
「急にオカマっぽくなったぞ。」
「お願いだから。」
「ハゲが!気持ち悪いだけだし!」
「そんな、ヒドイ。」
「だから気持ち悪いって!」
 亮介は力まかせに僧侶の肩を引いた。
「アイタタッー!」
 その力が強すぎて2人とも尻餅をついてしまった。
「…ッ…痛ーっ。」
 亮介はアスファルトにしこたまお尻を叩きつけられた。
「一体なんなんですか?」
 亮介は語気を荒げて聞いた。
「あぁ…もうダメだ。途中で終わってしまった。これは、もう戻せないかも。」
「おいっ。あんた!聞いてるのか?だから、何なんだよ、てか、誰なんだ!」
 亮介は突然現れたこの男に改めて聞いた。
「はぁ、あなたは大変な間違いを犯してしまいました。」
 僧侶は乱れた着物を払いながら妙に落ち着いた様子で言った。
「この世は見えないものと見えるものとに分けられる。人は見えるものだけを信じ、見えないものは信じようとはしない。しかし、見えなくてもそこには必ずあるのだ。それは感じ取っているはずなのだが、人はそれを信じようとはしない。」
「はぁ」
「つまり、感受性が働けば見えざるものが見えて、見えていたものが見えなくなる。これ、真理なり。」
「…はぁ?…って訳のわからないことを言ってんじゃぁねぇ!」
 亮介は渾身の力を振り絞って僧侶の胸ぐらを掴んだ。
「あーっ、待って。話せばわかりまする。話せばぁ!」
「やかましいわ!」
「イヤーッ!お願いだから殴らないで。話さなきゃわからないではないですか。」
「話すも何もアンタが一方的にこのバイクに手をかけてきたんだろうがぁ!」
「ヒェ〜!」
 その時、亮介の後ろから声がした。
「待ってください。」
 亮介は僧侶の着物に手をかけたまま振り向いた。
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