第36話

文字数 839文字

 二重の自動ドアをぬけ、すぐに野菜コーナーがある。色とりどりの春野菜が棚状になっている冷蔵庫の中でみずみずしく照明に照らされていた。
「まずは壁沿いにいきましょう。」
 慶長は持っていた数珠をだらりと右手に垂らしながら、食い入るように野菜たちを見回した。
 冷蔵棚には葉物野菜やカット野菜。通路にはジャガイモや根菜類が手に取りやすいさに置かれている。
「特に何も感じませんね。」
 続いて向かった先は、鮮魚コーナーである。サワラやブリ、スルメイカやホタテといった鮮魚が氷を敷き詰められた棚に所狭しと並べられていた。
 亮介は鮮魚の匂いがあまり好きではなかった。この生臭い匂いがどうも自分とは合わないらしい。
 少し、胃の辺りに違和感を感じながら、慶長の後についていく。
「ここも大丈夫です。」
 壁沿いに設置された冷蔵棚は長くコの字型に折れ曲がっていた。鮮魚コーナーはあまり長くなく、亮介のスーパーマルカツほどの充実感はなかった。
 しかし、精肉コーナーは非常に売り場面積も広くいろんな精肉を扱っていた。
 ブタ肉や牛肉、鶏肉はもちろんのこと、滅多に市場には出回らない牛の顔の肉であるツラミや、ウルテ、フワといったホルモンも充実していた。
 さらに驚いたことにこのスーパーでは羊肉も扱われていた。
 スーパーで働いている亮介はこの店が精肉店と特別な契約をしていることがよくわかった。下処理が面倒で、技術がいる内臓系のホルモンは素人ではなかなか手は出せない。
「うん、ここも問題は無いようですね。あと残っているのは冷蔵品コーナーと仲棚だけですね。」
 慶長の顔が益々真剣味を帯びてきた。
 通路は五人が連れ立って歩くと、いっぱいになり向かい側から来るお客とすれ違う事はなかなか難しいほど狭い。店内のBGMはいつしか、ビートルズのプリーズプリーズミーに変わっていた。この曲を聞くと亮介の心は少しざわつく。この曲はスーパーマルカツではレジ応援の要請をするときにかける特別な曲である。
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