01 あるべきように
文字数 4,088文字
背後に軽い足音を聞いて、女はため息をついた。
と言うのも、相手は気配すら感じさせずに背後に忍び寄る、いや、目前に魔術で現れることだって造作もない。即ち、わざわざ足音を立てるということは、自分が近づいていることを彼女に知らせる意図があるということになるからだ。
抱く複雑な思いをかけ慣れた仮面の裏に隠して、女は振り向いた。
「──サイン」
女王陛下への丁重な礼をされたレンの女王は目線を落とすと、また小さく嘆息し、双つの体躯を持つ蜘蛛が刻まれた右手を振った。
「やめて頂戴。あなたにそう呼ばれたくはないわ」
「すまん。では、サクリエルと呼べばよいか?」
「それも嬉しくはないけれど」
サクリエルは覚悟を決めたように顔を上げ、目前の男に目をやった。
「どういうつもりなの、オルエン。わざわざこうして私の前に現れるなど」
「謝罪を」
オルエンは短く言った。女王の眉が上げられる。
「謝罪ですって? いったい、何の? 心当たりが──ありすぎるわ」
「そうであろうな」
オルエンは肩をすくめた。
「ラクトル。アスレン。どちらも私がやったことだ」
「それだけ?」
「お前の在任期間を延ばしたことになるな」
「それは同じことの言い換えね。ほかには?」
女王の問い返しに、オルエンは面白そうに片眉を上げた。
「まだ何かあるのか?」
「ないとは言わせないわ」
「……妙な感傷を抱いているのではあるまいな」
「何の話?」
サクリエルは眉をひそめ、オルエンはまた肩をすくめた。
「では、何だ」
「そもそものはじまりよ。あなたがラインの座を捨て、フェルン・ラクトルがそれを継いだことから……はじまったのではないの」
「おお」
オルエンはにやりとした。
「そのことか」
女王と視線を行き合わせた魔術師は、ふと笑いを消した。
「まさか、こんな形に捻れることになるとは思わなんだ。どれだけ力を持っても、未来は読めんな」
「増して、人知を超えた力が関われば仕方のないこと。いいえ、オルエン。私はあなたを責めるつもりはありません」
サクリエルはまっすぐにオルエンの瞳を見つめて言った。
「アスレンは――自分を過信した。陥穽を作り上げたと思い込んで、自身が陥穽の淵に立っていることに気づかなかった。その穴に彼を落とし込んだのがあなたの手であったとしても、これはあの子の過失」
女魔術師ははっきりと言い、老魔術師はしばしじっとその視線を受け止め、うなずいた。
「ラーミフまで、逝くとはな」
オルエンは唸り声を上げた。
「守護の力を持っているうちならばともかく、それを失ったただ人がレンの王女の命を奪えるとは、思わなんだ」
「あなたにもそれを留めることはできなかったのね」
「ではそこを責めるのか?」
オルエンは首を傾げた。
「私は、あの〈守護者〉殿とは何も関わっていない。彼女の凶行とその死を防げなかったと、私を責めるか?」
「いいえ」
サクリエルは首を振った。
「レンに都市ウェレスとのつながりがなくて助かったわ。友好関係があれば、たとえ証拠はなくとも――我が王甥や王女がウェレス王の臣下の暗殺を図ったなど」
女王は、息子にそそのかされた甥と娘の取った行動とその死を淡々と語った。
「愚かなラーミフ。サズの復讐……と言うところだったのでしょうね。復讐と言うのは、殺した相手に対して、するものでしょうに」
サクリエルはじっとオルエンを見た。オルエンは目をしばたたく。
「……自身の失態に憤り、やり場のない怒りの矛先をサズに向けたのはアスレンだろう。私ではないぞ」
「判っています」
サクリエルはそっと息をついた。
「結果として、『アスレン』の星巡りは両刃だったと言うことね。鋭く強大な力は、標的だけではなくその周辺にもかまわず刃を振るった。レンは二度と、かの星巡りでラインを生み出すことはしないでしょう」
「セシアラが残ったのがせめてもだな」
「どうかしら」
サクリエルは肩をすくめた。
「『アスレン』の血を引くのよ」
「だが、娘御だ。お前の影響を濃く継ぐさ」
「――だといいのだけれど」
「気弱だな」
「そうもなるわ、当然でしょう」
「……すまん」
オルエンはまた謝罪をした。
「摂政を立てるといい。珍しいが、前例がなかった訳でもない」
「それは考えたわ」
サクリエルはうなずいた。
「補佐役という点では、適任がいるわね」
「そうだな」
オルエンもうなずいた。
「アスレンの忠犬であったが、あそこまでねじ曲がってはおらん。あやつを怖れる正常な感覚をまだ持っておったからな」
「助かるわ」
女王は皮肉めいた視線を老魔術師に向けた。
「ダイアまであなたのいいようにされていたら……人材不足も極まれり、と言うことになったでしょうからね」
「私はああ言った『愚かな忠犬』が好きなのだ、サクリエル」
オルエンは、彼の何代も先の子孫である青年が言ったこととよく似た台詞を口にした。
「あのスケイズは、見捨てるには惜しい。左手もどうにかしてやろう。時間をかければ、巧くいくだろう」
「あなたがそう言うのなら、そうでしょうね」
どこか投げやりに女王は言った。
「気に病むな」
オルエンは街の方向に手を振るようにした。
「シルヴァラッセンは稼働しておる。第一王子がひとりいなくなったところで、レンは崩れぬよ」
「稼働。そうね、しているわ」
サクリエルは皮肉の混じった笑みを浮かべた。
「行政には問題はないでしょう。教育は見直さなければならないと言うところね」
オルエンがにやりとすると、サクリエルは目を閉じた。
「──翡翠は、レンのためになる」
「何だと?」
いまさら野心でもあるまい、とオルエンは片眉を上げた。サクリエルは肩をすくめる。
「あの子が……アスレンが言ったのよ。あの子がこんな形で逝ったことで、レンの風は変わるわ。それがもし、この街のためになるなら」
サクリエルは笑みを浮かべた。
「アスレンの言葉は無意識の予言だったと──言うことになるわね」
それに対してはオルエンは沈黙を守った。少しの静けさののちに、彼はゆっくりと口を開く。
「時間は……かかるだろう。だがあるべきように戻る」
まるで慰めるかのようなオルエンの台詞に、サクリエルは少し面白そうな表情を浮かべた。
「そうだわ、あなたがまた――戻ると言うのはどうかしら?」
「よせ」
オルエンは天を仰いだ。
「きつい冗談だ」
サクリエルは、そうかしら、と呟いた。オルエンは唸り声を上げる。
「私とお前の間に、いったい何代があると思っている? どれだけ長い間、お前たちの目の届かぬ砂の神 の聖地にいたものか、自分でも判らん。それに第一、私の魔力はラクトルにかなり食われてしまったし、余裕ぶっては見せたが、アスレンとやり合うのだって相当に面倒ごとだったのだぞ。いまの私は、せいぜい大魔術師 と言ったところだ」
通常の魔術師協会 の基準で言えば、「ヴィント」は信じられないほどの魔力の持ち主ということになったが、オルエンは気軽にそう言った。それが彼なりの冗談であるのかどうか、判るのは相対していたサクリエルだけと言うことになろう。
「私はな……イーレスが残したものを探すうち、意味もなく私を怖れたラクトルに捕えられた」
オルエンはどこか遠く――或いは、過去を見るように目を細めた。
「目指すものを見付けたのではないかと考え出したところで、ラクトルのあの仕打ちだ。遥か昔に与えたものだけでは足りぬと、根こそぎ盗みにきおった。対抗するしかなかったが……まさか私の教えた術をあれだけ完璧に使いこなすとはな。長らく見なかった間に、我が弟も成長したものよ」
彼の地位を継ぎ、レンに君臨した弟、兄たる自らの手でその長き生に終止符を打った〈フェルン〉のことをどう思うのか、オルエンは淡々と言った。
「肉体を失い、意識だけとなり、あやつの陣に縛り付けられた。戦い続けてようやく破ったとは言え……私にとて、六十年は短くはないぞ」
「……そう」
興味はないと言うかのように、サクリエルは呟いた。
「でも、またこうして手と手を触れ合う世界に戻ってきた」
サクリエルの顔には皮肉めいた笑みが浮かんだ。
「レンに戻らないと言うのなら、また、探しものを続ける気なの」
「いや、もう見付けた」
それがオルエンの答えだった。
「私の血を引くかもしれんと言うのは、あやつには相当、気に入らない話だったようだがね」
サクリエルの目か奇妙な色を帯び、オルエンは制止するように片手を上げた。
「下らん考えは起こすな。正直なところを言えば……彼女の子孫だとは思うが、我が血統とは思わん。イーレスはレンの人間だが、位は持たんかったぞ」
「残念ね」
女王は微かに首を振った。
「そればかりは……騙る訳にもいかないわ」
少しの間、遠い子孫をじっと見やるようにしてから、オルエンは口を開いた。
「私が惰眠をむさぼっている間に、レンは……淀んだな」
「そう」
サクリエルはまた言うと、薄く笑った。
「翡翠ならば、それを払えたかしら?」
その皮肉にオルエンは口を歪めた。
「あれは均衡を保つためのものだ。余計な手出しはせぬことだな。かと言って」
老魔術師は嘆息した。
「それを禁忌とすれば、却ってそれに挑む者が出てくる。放っておくが、最上か」
「そうね」
女王は短く答えた。
「あなたは生きて。オルエン。その『探しもの』とやらがあなたの血統でないのなら……いまやレンの直系は三人となってしまった。次代と言える者は新しいラインであるセシアラだけ。あの子がこの地位を継ぎ、次のラインを生み出すまでは長いわ」
そう語りながらサクリエルは、遠い父祖を見た。
「可能ならば、オルエン。レンのために」
微かに笑うようにして、サクリエルは言った。
「子を為すのね」
オルエンは嫌そうに唸った。
と言うのも、相手は気配すら感じさせずに背後に忍び寄る、いや、目前に魔術で現れることだって造作もない。即ち、わざわざ足音を立てるということは、自分が近づいていることを彼女に知らせる意図があるということになるからだ。
抱く複雑な思いをかけ慣れた仮面の裏に隠して、女は振り向いた。
「──サイン」
女王陛下への丁重な礼をされたレンの女王は目線を落とすと、また小さく嘆息し、双つの体躯を持つ蜘蛛が刻まれた右手を振った。
「やめて頂戴。あなたにそう呼ばれたくはないわ」
「すまん。では、サクリエルと呼べばよいか?」
「それも嬉しくはないけれど」
サクリエルは覚悟を決めたように顔を上げ、目前の男に目をやった。
「どういうつもりなの、オルエン。わざわざこうして私の前に現れるなど」
「謝罪を」
オルエンは短く言った。女王の眉が上げられる。
「謝罪ですって? いったい、何の? 心当たりが──ありすぎるわ」
「そうであろうな」
オルエンは肩をすくめた。
「ラクトル。アスレン。どちらも私がやったことだ」
「それだけ?」
「お前の在任期間を延ばしたことになるな」
「それは同じことの言い換えね。ほかには?」
女王の問い返しに、オルエンは面白そうに片眉を上げた。
「まだ何かあるのか?」
「ないとは言わせないわ」
「……妙な感傷を抱いているのではあるまいな」
「何の話?」
サクリエルは眉をひそめ、オルエンはまた肩をすくめた。
「では、何だ」
「そもそものはじまりよ。あなたがラインの座を捨て、フェルン・ラクトルがそれを継いだことから……はじまったのではないの」
「おお」
オルエンはにやりとした。
「そのことか」
女王と視線を行き合わせた魔術師は、ふと笑いを消した。
「まさか、こんな形に捻れることになるとは思わなんだ。どれだけ力を持っても、未来は読めんな」
「増して、人知を超えた力が関われば仕方のないこと。いいえ、オルエン。私はあなたを責めるつもりはありません」
サクリエルはまっすぐにオルエンの瞳を見つめて言った。
「アスレンは――自分を過信した。陥穽を作り上げたと思い込んで、自身が陥穽の淵に立っていることに気づかなかった。その穴に彼を落とし込んだのがあなたの手であったとしても、これはあの子の過失」
女魔術師ははっきりと言い、老魔術師はしばしじっとその視線を受け止め、うなずいた。
「ラーミフまで、逝くとはな」
オルエンは唸り声を上げた。
「守護の力を持っているうちならばともかく、それを失ったただ人がレンの王女の命を奪えるとは、思わなんだ」
「あなたにもそれを留めることはできなかったのね」
「ではそこを責めるのか?」
オルエンは首を傾げた。
「私は、あの〈守護者〉殿とは何も関わっていない。彼女の凶行とその死を防げなかったと、私を責めるか?」
「いいえ」
サクリエルは首を振った。
「レンに都市ウェレスとのつながりがなくて助かったわ。友好関係があれば、たとえ証拠はなくとも――我が王甥や王女がウェレス王の臣下の暗殺を図ったなど」
女王は、息子にそそのかされた甥と娘の取った行動とその死を淡々と語った。
「愚かなラーミフ。サズの復讐……と言うところだったのでしょうね。復讐と言うのは、殺した相手に対して、するものでしょうに」
サクリエルはじっとオルエンを見た。オルエンは目をしばたたく。
「……自身の失態に憤り、やり場のない怒りの矛先をサズに向けたのはアスレンだろう。私ではないぞ」
「判っています」
サクリエルはそっと息をついた。
「結果として、『アスレン』の星巡りは両刃だったと言うことね。鋭く強大な力は、標的だけではなくその周辺にもかまわず刃を振るった。レンは二度と、かの星巡りでラインを生み出すことはしないでしょう」
「セシアラが残ったのがせめてもだな」
「どうかしら」
サクリエルは肩をすくめた。
「『アスレン』の血を引くのよ」
「だが、娘御だ。お前の影響を濃く継ぐさ」
「――だといいのだけれど」
「気弱だな」
「そうもなるわ、当然でしょう」
「……すまん」
オルエンはまた謝罪をした。
「摂政を立てるといい。珍しいが、前例がなかった訳でもない」
「それは考えたわ」
サクリエルはうなずいた。
「補佐役という点では、適任がいるわね」
「そうだな」
オルエンもうなずいた。
「アスレンの忠犬であったが、あそこまでねじ曲がってはおらん。あやつを怖れる正常な感覚をまだ持っておったからな」
「助かるわ」
女王は皮肉めいた視線を老魔術師に向けた。
「ダイアまであなたのいいようにされていたら……人材不足も極まれり、と言うことになったでしょうからね」
「私はああ言った『愚かな忠犬』が好きなのだ、サクリエル」
オルエンは、彼の何代も先の子孫である青年が言ったこととよく似た台詞を口にした。
「あのスケイズは、見捨てるには惜しい。左手もどうにかしてやろう。時間をかければ、巧くいくだろう」
「あなたがそう言うのなら、そうでしょうね」
どこか投げやりに女王は言った。
「気に病むな」
オルエンは街の方向に手を振るようにした。
「シルヴァラッセンは稼働しておる。第一王子がひとりいなくなったところで、レンは崩れぬよ」
「稼働。そうね、しているわ」
サクリエルは皮肉の混じった笑みを浮かべた。
「行政には問題はないでしょう。教育は見直さなければならないと言うところね」
オルエンがにやりとすると、サクリエルは目を閉じた。
「──翡翠は、レンのためになる」
「何だと?」
いまさら野心でもあるまい、とオルエンは片眉を上げた。サクリエルは肩をすくめる。
「あの子が……アスレンが言ったのよ。あの子がこんな形で逝ったことで、レンの風は変わるわ。それがもし、この街のためになるなら」
サクリエルは笑みを浮かべた。
「アスレンの言葉は無意識の予言だったと──言うことになるわね」
それに対してはオルエンは沈黙を守った。少しの静けさののちに、彼はゆっくりと口を開く。
「時間は……かかるだろう。だがあるべきように戻る」
まるで慰めるかのようなオルエンの台詞に、サクリエルは少し面白そうな表情を浮かべた。
「そうだわ、あなたがまた――戻ると言うのはどうかしら?」
「よせ」
オルエンは天を仰いだ。
「きつい冗談だ」
サクリエルは、そうかしら、と呟いた。オルエンは唸り声を上げる。
「私とお前の間に、いったい何代があると思っている? どれだけ長い間、お前たちの目の届かぬ
通常の
「私はな……イーレスが残したものを探すうち、意味もなく私を怖れたラクトルに捕えられた」
オルエンはどこか遠く――或いは、過去を見るように目を細めた。
「目指すものを見付けたのではないかと考え出したところで、ラクトルのあの仕打ちだ。遥か昔に与えたものだけでは足りぬと、根こそぎ盗みにきおった。対抗するしかなかったが……まさか私の教えた術をあれだけ完璧に使いこなすとはな。長らく見なかった間に、我が弟も成長したものよ」
彼の地位を継ぎ、レンに君臨した弟、兄たる自らの手でその長き生に終止符を打った〈フェルン〉のことをどう思うのか、オルエンは淡々と言った。
「肉体を失い、意識だけとなり、あやつの陣に縛り付けられた。戦い続けてようやく破ったとは言え……私にとて、六十年は短くはないぞ」
「……そう」
興味はないと言うかのように、サクリエルは呟いた。
「でも、またこうして手と手を触れ合う世界に戻ってきた」
サクリエルの顔には皮肉めいた笑みが浮かんだ。
「レンに戻らないと言うのなら、また、探しものを続ける気なの」
「いや、もう見付けた」
それがオルエンの答えだった。
「私の血を引くかもしれんと言うのは、あやつには相当、気に入らない話だったようだがね」
サクリエルの目か奇妙な色を帯び、オルエンは制止するように片手を上げた。
「下らん考えは起こすな。正直なところを言えば……彼女の子孫だとは思うが、我が血統とは思わん。イーレスはレンの人間だが、位は持たんかったぞ」
「残念ね」
女王は微かに首を振った。
「そればかりは……騙る訳にもいかないわ」
少しの間、遠い子孫をじっと見やるようにしてから、オルエンは口を開いた。
「私が惰眠をむさぼっている間に、レンは……淀んだな」
「そう」
サクリエルはまた言うと、薄く笑った。
「翡翠ならば、それを払えたかしら?」
その皮肉にオルエンは口を歪めた。
「あれは均衡を保つためのものだ。余計な手出しはせぬことだな。かと言って」
老魔術師は嘆息した。
「それを禁忌とすれば、却ってそれに挑む者が出てくる。放っておくが、最上か」
「そうね」
女王は短く答えた。
「あなたは生きて。オルエン。その『探しもの』とやらがあなたの血統でないのなら……いまやレンの直系は三人となってしまった。次代と言える者は新しいラインであるセシアラだけ。あの子がこの地位を継ぎ、次のラインを生み出すまでは長いわ」
そう語りながらサクリエルは、遠い父祖を見た。
「可能ならば、オルエン。レンのために」
微かに笑うようにして、サクリエルは言った。
「子を為すのね」
オルエンは嫌そうに唸った。