06 六十年前
文字数 4,262文字
「六十年前です!」
扉を開けるなりエイルは声を出し、ミレインの驚いた顔と遭遇した。
「閣下なら、町よ」
「……ああ、そういや、行くって言ってました」
エイルは少し不自然な笑みを浮かべるとそう言った。
ふたりで話をしたとき以来、ミレインと挨拶以上の言葉を交わしたことはなかった。彼はミレインを「あの伯爵様にはもったいないほどの女性」だと思っているが、かと言ってゼレットが茶化した――それとも本気で言った――ように彼女に惚れたとは思っていない。浮かんだ笑みがぎこちなかったのは、憧れの年上の女性に行き合ったからではなく、単に気恥ずかしかったからだ。
「すみませんでした、出直しますよ」
「何が知りたいことでも?」
女性執務官は照れ笑いを浮かべる少年を引き止めるように声をかける。
「よければ話を聞かせてちょうだい。もし調べものがあるなら、どうせ閣下からは私に回ってくるんですからね」
ミレインは澄ましてそう言うと笑った。エイルも今度は普通の笑顔を返した。
「六十年前と言ったわね?」
女性執務官は首をかしげた。
「それはつまり、前の〈変異〉の年という意味かしら。それがどうかしたの?」
「知りたいんです、その年に何か……変わった出来事がなかったかどうか」
エイルはマルド執務官の話を思い出す。ゼレットの祖父は翡翠を見ている。隠されたのは、その代――その年だ。
「何か六十年前のことが判る方法ってありませんかね」
「そうねえ」
ミレインは頬に手を当てた。
「毎年の記録簿は書庫に保存してあるけれど、基本的に最長でも二十年辺りを目安に破棄しているわね。状態も悪くなるから」
「あー、それも、そうか」
「一部の重要なものは何とかして取っておくけれど、さすがに六十年分はどうかしら……見ておきましょうか?」
有難い言葉に少年はこくこくとうなずいた。
「でも、変わったことと言うのはどんなこと? もう少し手がかりをもらえないと、謎解きみたいだわ」
「そう、ですね」
少年は考えてから首を振った。
「俺にも判らない。何でもいいんです。普段の年に起こらないような何か特殊な出来事」
「曖昧ね」
ミレインは指摘した。
「探したいものが判らないんじゃ、記録があったとしても全部紐解いて見ないといけないわ」
「記録……そうか」
エイルははたと気づいた。
「魔術師協会 」
「協会?」
ミレインの問い返しにうなずいた。
「あの連中なら、百年分やそこらくらい、記録を保管してますよ。魔術で保存状態もいいはずだし……ミレイン、俺ちょっと町へ行ってきます!」
言うが早いが少年はまたも踵を返し、初老の執務官と同じように女性執務官の首を傾げさせた。
「そう、その町での出来事だった」
クラーナは少し迷ったあと、いつもの軽いライファム酒ではなく、きつめのキイリア酒を注文していた。
「カーディル 。僕は君たちや翡翠を追ってアーレイドにもシャムレイにもスラッセンにも――ビナレス中を歩いたけれど、あの町だけは……未だに足を踏み入れていない」
これだけ翡翠に関わりの深い町なのに、とクラーナは呟いた。その姿はずいぶんと頼りなく見え、シーヴは慰めそうになったが――伸ばしかけた手をとどめた。
男を相手にそのようなことをしたくないと言うよりは、クラーナがそれを望まないだろうと、知っていた。
「僕の〈鍵〉は魔術師だった。と言っても、自称するところでは、『魔力を失った』魔術師」
「何だそれは」
思わず、シーヴは不審そうに顔をしかめた。そのようなことなら無論、魔力を持たなくても名乗ることができよう。そのようなことをしていったい何の意味があるのかは、判らないが。
「知らないよ。彼の名はオルエンと言って、魔力をなくしたと言いながら、魔術師としか思えない力を振るう男だった。しかも、自称するところでは百歳を超えるとのことでね」
「とんだ〈嘘つき妖怪 〉だったということか?」
「どうかな。少なくとも見た目については僕よりも少し上、と言ったところだったけど、魔術師の外見なんて当てにならない」
いまや僕も見た目は当てにならないね、などと詩人はつけ加えた。
「君と彼は似ているよ。外見は全く違うけれど、物事への感性とか、僕の台詞に対する返答とか――ふたりとも、砂漠に近しいこととか、ね」
「東の、人間なのか」
「いや」
シーヴの問いに、クラーナは首を振った。
「けれど砂漠に暮らしていた」
そう聞いた砂漠の青年は、吟遊詩人の言うことを考えるかのように目を細くした。
「何を言ってるんだ、こいつは、って顔をしてるね」
「おかしなことを言うからだ」
シーヴの言葉に、クラーナは肩をすくめる。東の人間ではないのに砂漠に近く、そこに暮らす。それは彼にとって――いや、むしろ西の人間の誰にとっても奇妙な話に聞こえるだろう。
「おかしくなんかないさ。君は彼を知ってるよ、シーヴ。直接に会ったことはなくても、君は何度も彼に助けられてる。エイラもね」
「何を」
胡乱そうに繰り返そうとしたシーヴは、しかし不意に心の内に蘇ったものを感じた。彼が最初にその名を聞いたのは、クラーナからではない。
「――オルエン」
「ええ」
その名を繰り返した娘に、受付の魔術師 はうなずいた。
「確かにそう、記録にありますよ、エイラ術師」
魔術師協会を訪れるのならば魔術師である方がよい。そう考えた少年は、いささか危険だとは思いながらその姿を取っていた。
危険と言うのは、アーレイドのような大都市に比べればカーディルは遥かに小さく、見慣れぬ女魔術師がどこから湧いて出たかと怪しむ町びとがいないとも限らなかったからだ。
「ご存知なのですか」
「いや、知らないな」
その名を彼女は知っていた。〈宮殿〉でクラーナが口にしたその名が、かつて吟遊詩人の〈鍵〉であったことは推測がついていた。
だがこの返答にごまかす意図はなかった。エイラ自身、判らなかったのだ。クラーナの〈鍵〉がどういう人間なのかは知らない。
「何者なんだ、そいつ」
「そのような曖昧な問いに答えるのは難しいですが」
「それじゃ答えられることだけ答えてくれ」
エイラは唇を歪めた。
「その事件のことを全部、聞かせてほしい」
「何を期待されているのか判りませんが、大した話は聞かせられませんよ」
いちいち言うことに反発するのがこいつの趣味なのだろうか、などとエイラは思ったがそうは口にせず、ただ促した。
「オルエンという名の術師がこの町を訪れ、あろうことか魔術で他者を傷つけようとました」
術師はそんなふうにはじめた。
「本来ならばオルエン術師を罰に処すべきですが、相手もまた魔術師だったのですね。相手は呪返しを使い、オルエン術師は返された自身の術に撃たれて命を落としました」
「死んだ、のか……」
「そうだよ」
クラーナは感情を声に出さずに言った。
「あれじゃリ・ガンだって間に合わないさ。本当のことを言うと、僕は彼を『守る』つもりなんてなかった。〈鍵〉を失ってはいけないと判っていたけれど、彼は魔力を失ったと言いながらも大した魔術師ぶりを見せていたし、可愛い女の子でもあればともかく、自称百歳以上の男を守るなんてのは嬉しい考えでもなかったし、ね」
クラーナは息をついた。
「そうさ。かつてのリ・ガンは〈鍵〉を守りきれなかった。あの瞬間のことはいまでも繰り返し夢に見る。眠らずに過ごしたわずかな日々が去ってしまったことを呪ったけど、これも女神様の罰なのだろうと思い直した。忘れるな、と言うんだろう」
忘れやしないのにね、と吟遊詩人 は遠くを見る目付きをした。
「相手は……何者だ」
シーヴは、尋ねてもいいものだろうかとわずかに逡巡したのちで問うた。
「オルエンってのは相当の力の持ち主だったんだろう」
「そうだね。『失う』前については、実際には知らないけれど」
「偉業 は知ってるな」
シーヴは思い出していた。
(――前の)
(前の主は、名をオルエンと言った)
彼が最初のその名を聞いたのは――砂漠に立つ石でできた〈塔〉からだった。
オルエン。
〈塔〉を造り、スラッセンの町を創った、〈砂漠の守り手〉。〈塔〉の前の主。それが、六十年前の〈鍵〉。彼の先代 だと言う。
「そうだね 」
クラーナは同意した。
「相手の術師を僕は知らない。ただ、オルエンとは深い関わりのある男だった。それは、彼の魔力を奪った術師だったから」
「何だって?」
エイラは眉をしかめた。
「相手の正体は判らないって言うのか?」
「ええ、協会 はそれを追いませんでした」
「……おい。オルエンとかが先に魔術を使ったからって、殺した方は名前も残させないで逃がしたって言うのかよ」
「我々は町憲兵隊 ではありませんし、自衛ならば術の行使も許されることくらいは判っているでしょう」
魔術師は、自分が咎められたかのように少しむっとして言った。
「呪返しで死んだのならば、彼が放った術にはそれだけの力があったということ。文字通り〈自らの陥穽に落ちる〉行為と申し上げますか……」
そこで魔術師はふと言葉を切り、エイラは片眉をあげた。
「――お待ちください。この出来事にはほかに記録されている詳細がございますね」
「詳細?」
娘は身を乗り出した。
「教えてくれ」
「重要事項扱いですから、導師の許可が必要になります」
「どうすれば許可を取れる」
「時間がかかりますよ」
「悪いけど、私はそんなに気が長くないんだ」
エイラはほんの一瞬 だけ躊躇ったが、腰に手を当てて続けた。
「ゼレット・カーディル閣下を呼んで、話の判る術師を出せと言ってもらおうか?」
「……面倒な話になったな」
シーヴは唸って腕を組んだ。
「つまり、その相手がどこの誰かも、どうしてるのかも、判らないってことか」
「いい年齢に見えたからね、普通なら死んでると思うところだけど、魔術師なんて普通じゃないし」
「お前も含めてな」
シーヴは思わずと言う感じで言い、クラーナは笑った。
「いいね、王子様。調子が戻ってきたみたいじゃない」
「何だって?」
「僕に気を使うなんて君らしくないってことだよ」
扉を開けるなりエイルは声を出し、ミレインの驚いた顔と遭遇した。
「閣下なら、町よ」
「……ああ、そういや、行くって言ってました」
エイルは少し不自然な笑みを浮かべるとそう言った。
ふたりで話をしたとき以来、ミレインと挨拶以上の言葉を交わしたことはなかった。彼はミレインを「あの伯爵様にはもったいないほどの女性」だと思っているが、かと言ってゼレットが茶化した――それとも本気で言った――ように彼女に惚れたとは思っていない。浮かんだ笑みがぎこちなかったのは、憧れの年上の女性に行き合ったからではなく、単に気恥ずかしかったからだ。
「すみませんでした、出直しますよ」
「何が知りたいことでも?」
女性執務官は照れ笑いを浮かべる少年を引き止めるように声をかける。
「よければ話を聞かせてちょうだい。もし調べものがあるなら、どうせ閣下からは私に回ってくるんですからね」
ミレインは澄ましてそう言うと笑った。エイルも今度は普通の笑顔を返した。
「六十年前と言ったわね?」
女性執務官は首をかしげた。
「それはつまり、前の〈変異〉の年という意味かしら。それがどうかしたの?」
「知りたいんです、その年に何か……変わった出来事がなかったかどうか」
エイルはマルド執務官の話を思い出す。ゼレットの祖父は翡翠を見ている。隠されたのは、その代――その年だ。
「何か六十年前のことが判る方法ってありませんかね」
「そうねえ」
ミレインは頬に手を当てた。
「毎年の記録簿は書庫に保存してあるけれど、基本的に最長でも二十年辺りを目安に破棄しているわね。状態も悪くなるから」
「あー、それも、そうか」
「一部の重要なものは何とかして取っておくけれど、さすがに六十年分はどうかしら……見ておきましょうか?」
有難い言葉に少年はこくこくとうなずいた。
「でも、変わったことと言うのはどんなこと? もう少し手がかりをもらえないと、謎解きみたいだわ」
「そう、ですね」
少年は考えてから首を振った。
「俺にも判らない。何でもいいんです。普段の年に起こらないような何か特殊な出来事」
「曖昧ね」
ミレインは指摘した。
「探したいものが判らないんじゃ、記録があったとしても全部紐解いて見ないといけないわ」
「記録……そうか」
エイルははたと気づいた。
「
「協会?」
ミレインの問い返しにうなずいた。
「あの連中なら、百年分やそこらくらい、記録を保管してますよ。魔術で保存状態もいいはずだし……ミレイン、俺ちょっと町へ行ってきます!」
言うが早いが少年はまたも踵を返し、初老の執務官と同じように女性執務官の首を傾げさせた。
「そう、その町での出来事だった」
クラーナは少し迷ったあと、いつもの軽いライファム酒ではなく、きつめのキイリア酒を注文していた。
「
これだけ翡翠に関わりの深い町なのに、とクラーナは呟いた。その姿はずいぶんと頼りなく見え、シーヴは慰めそうになったが――伸ばしかけた手をとどめた。
男を相手にそのようなことをしたくないと言うよりは、クラーナがそれを望まないだろうと、知っていた。
「僕の〈鍵〉は魔術師だった。と言っても、自称するところでは、『魔力を失った』魔術師」
「何だそれは」
思わず、シーヴは不審そうに顔をしかめた。そのようなことなら無論、魔力を持たなくても名乗ることができよう。そのようなことをしていったい何の意味があるのかは、判らないが。
「知らないよ。彼の名はオルエンと言って、魔力をなくしたと言いながら、魔術師としか思えない力を振るう男だった。しかも、自称するところでは百歳を超えるとのことでね」
「とんだ〈
「どうかな。少なくとも見た目については僕よりも少し上、と言ったところだったけど、魔術師の外見なんて当てにならない」
いまや僕も見た目は当てにならないね、などと詩人はつけ加えた。
「君と彼は似ているよ。外見は全く違うけれど、物事への感性とか、僕の台詞に対する返答とか――ふたりとも、砂漠に近しいこととか、ね」
「東の、人間なのか」
「いや」
シーヴの問いに、クラーナは首を振った。
「けれど砂漠に暮らしていた」
そう聞いた砂漠の青年は、吟遊詩人の言うことを考えるかのように目を細くした。
「何を言ってるんだ、こいつは、って顔をしてるね」
「おかしなことを言うからだ」
シーヴの言葉に、クラーナは肩をすくめる。東の人間ではないのに砂漠に近く、そこに暮らす。それは彼にとって――いや、むしろ西の人間の誰にとっても奇妙な話に聞こえるだろう。
「おかしくなんかないさ。君は彼を知ってるよ、シーヴ。直接に会ったことはなくても、君は何度も彼に助けられてる。エイラもね」
「何を」
胡乱そうに繰り返そうとしたシーヴは、しかし不意に心の内に蘇ったものを感じた。彼が最初にその名を聞いたのは、クラーナからではない。
「――オルエン」
「ええ」
その名を繰り返した娘に、受付の
「確かにそう、記録にありますよ、エイラ術師」
魔術師協会を訪れるのならば魔術師である方がよい。そう考えた少年は、いささか危険だとは思いながらその姿を取っていた。
危険と言うのは、アーレイドのような大都市に比べればカーディルは遥かに小さく、見慣れぬ女魔術師がどこから湧いて出たかと怪しむ町びとがいないとも限らなかったからだ。
「ご存知なのですか」
「いや、知らないな」
その名を彼女は知っていた。〈宮殿〉でクラーナが口にしたその名が、かつて吟遊詩人の〈鍵〉であったことは推測がついていた。
だがこの返答にごまかす意図はなかった。エイラ自身、判らなかったのだ。クラーナの〈鍵〉がどういう人間なのかは知らない。
「何者なんだ、そいつ」
「そのような曖昧な問いに答えるのは難しいですが」
「それじゃ答えられることだけ答えてくれ」
エイラは唇を歪めた。
「その事件のことを全部、聞かせてほしい」
「何を期待されているのか判りませんが、大した話は聞かせられませんよ」
いちいち言うことに反発するのがこいつの趣味なのだろうか、などとエイラは思ったがそうは口にせず、ただ促した。
「オルエンという名の術師がこの町を訪れ、あろうことか魔術で他者を傷つけようとました」
術師はそんなふうにはじめた。
「本来ならばオルエン術師を罰に処すべきですが、相手もまた魔術師だったのですね。相手は呪返しを使い、オルエン術師は返された自身の術に撃たれて命を落としました」
「死んだ、のか……」
「そうだよ」
クラーナは感情を声に出さずに言った。
「あれじゃリ・ガンだって間に合わないさ。本当のことを言うと、僕は彼を『守る』つもりなんてなかった。〈鍵〉を失ってはいけないと判っていたけれど、彼は魔力を失ったと言いながらも大した魔術師ぶりを見せていたし、可愛い女の子でもあればともかく、自称百歳以上の男を守るなんてのは嬉しい考えでもなかったし、ね」
クラーナは息をついた。
「そうさ。かつてのリ・ガンは〈鍵〉を守りきれなかった。あの瞬間のことはいまでも繰り返し夢に見る。眠らずに過ごしたわずかな日々が去ってしまったことを呪ったけど、これも女神様の罰なのだろうと思い直した。忘れるな、と言うんだろう」
忘れやしないのにね、と
「相手は……何者だ」
シーヴは、尋ねてもいいものだろうかとわずかに逡巡したのちで問うた。
「オルエンってのは相当の力の持ち主だったんだろう」
「そうだね。『失う』前については、実際には知らないけれど」
「
シーヴは思い出していた。
(――前の)
(前の主は、名をオルエンと言った)
彼が最初のその名を聞いたのは――砂漠に立つ石でできた〈塔〉からだった。
オルエン。
〈塔〉を造り、スラッセンの町を創った、〈砂漠の守り手〉。〈塔〉の前の主。それが、六十年前の〈鍵〉。彼の
「
クラーナは同意した。
「相手の術師を僕は知らない。ただ、オルエンとは深い関わりのある男だった。それは、彼の魔力を奪った術師だったから」
「何だって?」
エイラは眉をしかめた。
「相手の正体は判らないって言うのか?」
「ええ、
「……おい。オルエンとかが先に魔術を使ったからって、殺した方は名前も残させないで逃がしたって言うのかよ」
「我々は
魔術師は、自分が咎められたかのように少しむっとして言った。
「呪返しで死んだのならば、彼が放った術にはそれだけの力があったということ。文字通り〈自らの陥穽に落ちる〉行為と申し上げますか……」
そこで魔術師はふと言葉を切り、エイラは片眉をあげた。
「――お待ちください。この出来事にはほかに記録されている詳細がございますね」
「詳細?」
娘は身を乗り出した。
「教えてくれ」
「重要事項扱いですから、導師の許可が必要になります」
「どうすれば許可を取れる」
「時間がかかりますよ」
「悪いけど、私はそんなに気が長くないんだ」
エイラはほんの一
「ゼレット・カーディル閣下を呼んで、話の判る術師を出せと言ってもらおうか?」
「……面倒な話になったな」
シーヴは唸って腕を組んだ。
「つまり、その相手がどこの誰かも、どうしてるのかも、判らないってことか」
「いい年齢に見えたからね、普通なら死んでると思うところだけど、魔術師なんて普通じゃないし」
「お前も含めてな」
シーヴは思わずと言う感じで言い、クラーナは笑った。
「いいね、王子様。調子が戻ってきたみたいじゃない」
「何だって?」
「僕に気を使うなんて君らしくないってことだよ」