パーティ結成 -10-

文字数 1,421文字

 バスに乗って街に戻る。行先の中にホテルがあったので、そこで降りた。サチコのいる転職屋とコテツのいる萬屋の間にある薬屋。キャラの濃い二人の店に囲まれたそこでは、いったいどんな人が待ち受けているのかと不安と期待が混じったような感情になる。意を決して、「薬」と書かれた暖簾をくぐった。
『いらっしゃいませぇ』
 ゆっくりとした口調の女性だった。白装束に緋色の袴、長い黒髪を垂髪にしており、一見すると巫女のような装いだ。全く化粧をしておらず、それでも美人という印象を受ける彼女は、作業を止めて出迎えてくれた。
『お薬がご入り用ですか』
 少し心拍数が上がったのを悟られないよう、コージは一呼吸おいてマンドラゴラの根を呼び出した。アイテムの名を口にするだけで自動で出て来てくれた。「何をしたいか口に出せば、だいたい思い通りにしてくれる」というフミトの教えを真似してみたら、本当に思い通りになった。
「素材調達の依頼を受けて、こちらをお持ちしました」
 マンドラゴラの根を受け取った彼女は、目を丸くして喜んだ。
『まあ、ありがとうございます。とても助かりますわ。マンドラゴラの根はお薬を作るのに役立ちますの。申し遅れましたが、わたしはギンコと申します』
「コージと言います。それが薬を作るための素材になるんですよね。あの見た目と声からは想像がつかないです」
『気が狂いそうな声だったでしょう? 中々入手が難しくて、依頼させていただいたんですの。これで良い薬が作れますわ』
 今思い出しても鳥肌が立ちそうな奇声だった。声も見た目もおぞましいクリーチャーの根が薬になるというのだから、分からないものだ。
「どんな薬ができるんです?」
 興味本位で訊いてみると、ギンコの口元が不気味に歪んだ。
『鎮痛剤でも麻酔でも解毒剤でもこれがあれば作れてしまうんですの不妊薬としても使えますし精神衰弱にも効くんですのよ媚薬としても使えますから思いを寄せるお相手がいたら茶に盛って寝とることもできますわその上』
「ちょっと待って! いったん息を吸ってください!」
 先程とは打って変わって早口で、目を輝かせながら説明する彼女は、今の台詞をひと呼吸で言い切った。止めないと息を忘れてしゃべり続けそうだった。しかも最後は何だか恐ろしいことを言っていた。
『あら、失礼いたしました……。お薬のことになると、どうにも興奮してしまって』
 もとのゆっくりした口調に戻って、上目遣いで恥ずかしそうに口元を隠す彼女。第一印象のままなら上目遣いで心が揺さぶられたかもしれないが、今の変わりようを見た後は恐怖が勝る。横並びの三軒の店に、まともな店主が一人もいないことはよく理解できた。
『依頼を受けてくださって助かりました。御礼は後ほどお送りさせていただきますね。あの、よろしければお薬を見ていかれませんか。クリーチャーと戦うとなれば怪我は避けられないでしょうし、毒や麻痺で動けなくしてくる相手もいると聞きます。備えていかれてはいかがです?』
 彼女の二面性はともかく、薬はあった方が安心なので、お言葉に甘えて店内を見せてもらうことにした。木の台に並ぶ様々な種類の薬を見てみる。粉薬が入った薬包紙や、瓶に入ったドリンクなど、現実世界と相違ない見た目をしている。常備薬の持ち歩き用の入れ物は、なぜか印籠だった。これを買って、フミトに「これが目に入らぬか」と言ってみようか。物珍しそうに見ていたコージのところへ、ギンコが戻ってきた。
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