神官を追って -8-

文字数 1,596文字

「ごめんな、フミト」
『さらばだ』
 鬼婆は小刀を振り上げた。振り下ろそうとしたその時、彼らの頭上の天井がパカリと開いた。
『なんじゃ!?』
 鬼婆が見上げたその場所から何かが滑り落ちる音と悲鳴が遠くから響いたかと思えば。
「うわああああああ!!」
 フミトが勢いよく振って来て鬼婆を蹴り飛ばし、コージの上にどすんと落ちた。
「ぐは!」
「あぎゃ!」
 とんでもない登場の仕方をしたフミトに、さすがの鬼婆も動揺している。
『な、なんじゃお前は!?』
「お前こそ何だよ!?」
 尻餅をついた格好のフミトが威勢よく聞き返す。姿を見れば、追い求めていた敵であると想像が付きそうなものだが、恐怖のアトラクションに落下イベントという恐怖を連続で味わったせいか、当初の目的が頭からすっぽ抜けているようだった。
「……おい、フミト」
「コージさん!? どこっすか?」
「お前が踏んでんだよ。どいてくれ」
 自分の尻の下からの声に、慌てて立ち上がってコージを助け起こした。
「コージさん! 大丈夫っすか!?」
「ああ。……サンキューな」
「いやいや、こちらこそっすよ! 穴に落とされたと思ったら急にここに落ちて、俺もう死ぬかと思ったっすよ」
 お互い死にそうになっていたところを救い合っていた。そう思うとコージは笑えてきたが、笑みがこぼれる理由はそれだけではない。
「お帰り、相棒」
 フミトに聞き取れない程度の声量で、そう言っておいた。
『仲間か』
 落ち着きを取り戻した鬼婆が再び小刀を向けてくる。
「フミト、こいつが鬼婆だ」
「ええ!? 封印解けてるじゃないっすか! じゃあ、神官は……?」
「石になってるが、生きてる」
『お前も仲良く石になるか? その小僧には効かなんだが、お前には効きそうだ』
 鬼婆は術で砂嵐を起こし、フミトに放った。すかさずコージがフミトの前に立ち、全て受けきる。
『邪魔な小僧め』
「気を付けろ、フミト。この砂を浴びると石になる。俺はカイミルさんから預かった腕輪のお陰で術が効かないが、フミトは危険だ」
「まじっすか!? チートだな」
「おまけに普通に強い。一人じゃ勝負にすらならなかったんだ」
『二人なら勝負になると言うのか』
「ああ。俺達二人が揃った状態で、負けたことはないからな」
「ここにくるまでにレベル上がって、なんか新しい技覚えてたし、負ける気しねーっす!!」
 離れ離れになっている間も戦闘をこなし(正確にはトロッコが勝手に倒していっただけなのだが)、成長したフミトをコージは頼もしく思う。仲間がいる、それだけで強くいられる。
『そのような幻想、打ち砕いてくれる』
 あっという間にコージの目の前に現れる。コージを踏みつけ、高く跳躍すると、後ろにいるフミトに刃を向けて飛び掛かる。
『まずは貴様から片づけてくれる』
 フミトは矢を番え、敵に狙いをつける。

 ― 破魔金(はまがね)の矢 ―

『なに!?』
 驚異的な反射神経で辛うじて避けた鬼婆だが、フミトへの攻撃はやめて距離を取った。
『なるほど。今の技は脅威じゃな』
「くそ、新技でソッコーで決めようと思ったのに。空中で避けるとか、どうなってんだこいつは」

 ― 氷縛(ひょうばく)の矢 ―

 フミトは間髪入れずに技を放つ。やはり避けられてしまい、地面に刺さった矢の周りが凍り付くだけで終わる。
「何だその動き。ほんとにババアか、こいつは」
 悪態をつくフミトの猛攻のお陰で、コージは剣を回収することができた。氷縛の矢を連発しているせいで、地面や壁のあちこちに氷が張っている。敵は回避のみで反撃をしていない。フミトの放った新技は敵にとって危険なようで、不用意にフミトに近づけないでいるようだ。
「頼もしいな、まったく」
『むっ!?』
 鬼婆が空中に退避したタイミングを狙い、コージは吹き矢を放った。さすがに術を繰り出す余裕は無かったようで、身体を反らして避けていた。元とはいえ、鬼婆になる前は人間の老婆だったというのが信じられない動きをする。

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