イワト隠れ -12-

文字数 2,590文字

 逆U字の通路を進む。すると、地下に降りる階段が現れた。
「お、もしかして当たり引いた感じっすかね? 封印っていったら地下って感じがするし」
「タイムカプセルとちゃうねんから」
「とにかく、進んでみよう」
 薄暗い階段を慎重に降りる。足元が危ういので、ミズキがリヒターンを唱えて明かりを出してくれた。階段を降り切った先には、扉がひとつ。
「開けるぞ」
 二人の反応を見てから、コージは扉を開けた。ミズキが中を照らすと、四角い空間に棺桶がずらりと並べられていた。
「か、棺桶! なんなん、この部屋?」
「ま、まさか、ゾンビ部屋か!」
「そ……そんなら、この棺桶が一斉にガバって開いて、一気に襲ってくるん? 嫌や嫌や!」
「お前らちょっと黙れ」
 村長の家で神官の死体を見てからというもの、ミズキ達はゾンビ恐怖症になりつつあるようだった。神官は骨になっていて、ゾンビでもなければ襲われてもいないというのに。気を取り直して観察してみると、大量の棺桶の奥には、西洋風の女性に翼が生えた姿の女神の石像が置かれている。両手を広げて、まるで棺桶の死人たちを優しく包み込むような神聖さがあった。
「もしかして、ここは地下墓地なんじゃないか……?」
 クリーチャーが出てきそうな邪悪な雰囲気がないし、死者を丁寧に眠りにつかせているように思える。
「なんや……ビックリしたわあ」
「お前、神官なんだから、神殿に地下墓地があることとか分かるだろ? なんで一緒にビビってんだよ」
「そんなん知らんわ。神殿いうたかて、ウチがいたヴェルナ神殿とここは全然造りがちゃうもん。ヴェルナ神殿には地下墓地なんてなかったし」
 ある程度は現実に倣った世界なのだろうが、あまり宗教観を忠実に再現しすぎないようにしているのだろう。西洋風の神殿に、和風の巫女が仕えているあたり、今更ながら自国らしい。盆に、祭りに、クリスマスに、ハロウィン。世界中のイベントがごっちゃまぜに存在するこの国を、ある意味では忠実に再現しているとも言えなくもない。
「とにかく、ここはハズレだな。戻ろう」
 コージが踵を返して、大勢の死人が眠る部屋を後にしようとしたとき。
「あ、あそこ、何かあります!」
 フミトが女神の石像を指さして掛けていく。さっきまでは怖がっていたくせに、墓地と分かると臆せず奥まで進んでいる。コージはここが地下墓地だと言っただけで、ゾンビが出て来ないとは言っていないのだが。それはともかく、フミトに続いて石像のところへ行くと、石像の前に置かれた台座の上に、確かに何かが置かれていた。暗めの赤で染められた箱に、蓋のアーチや側面部分に金色の装飾が施されたそれは、どこからどう見ても――。
「宝箱や!」
 RPG定番の宝箱が初登場した。
「これ、開けちまっていいのかな」
「神官の立場からしたら、はいどうぞ、とは言いづらいねんけど……。まあ、ええんちゃう?」
「軽いなお前」
「人ん家や神殿に勝手に入ったり、部屋のドア蹴破ったりしておいて、今更やろ。それに、こんな目立つ場所に置いてあるんやし、普通に考えたら旅のお助けアイテムやろ」
「じゃあ開けるぞ」
 実はそれはトラップのスイッチで、箱を開けたらゾンビが大量に這い出てくるかもな――と思ったコージだったが、思っただけで言わないでおいた。この二人の前でそんな冗談を言おうものなら、絶対にめんどくさい事態になる。幸いなことにトラップではなく、宝箱の中にはちゃんとアイテムが納められていた。
 納められていたのは、緑色のしおりのような紙。
「何やろ、これ」
「調べてみようぜ。アイテム情報!」
 紙を手に取ったフミトが情報を調べる。紙の説明がホログラムで表示された。

――――――――――――――――――――
【風の神札(ふだ)

魔法の吹き矢に使うと、風の力を纏った矢
を出せるようになる
――――――――――――――――――――

「魔法の吹き矢って、ミズキが持ってる道具のことっすよね?」
「だな。今は雷の力を込めた矢しか出せないけど、これを使えば風の力を込めた矢も出せるようになるってことじゃないか?」
「なんや使いどころがピンポイントなアイテムやなあ。ウチらは魔法の吹き矢を持ってるけど、持ってなかったら全然使いもんにならんやんか」
 確かにそうだ。回復薬や毒消し薬に比べたら、汎用性が低すぎる。
「今更っすけど、コージさんはその吹き矢をどこで手に入れたんすか? 萬屋にそんなのありましたっけ?」
「いや。倒した敵がドロップしたんだ」
 コージが初めて戦闘に出た日、グリーンワームとアイバットに同時に襲われた時の事。当時は飛び道具も遠距離攻撃の技もなかったため、空を飛ぶアイバットとの戦闘に苦戦を強いられた。先に倒したグリーンワームがアイテム――魔法の吹き矢――をドロップし、その吹き矢のお陰でアイバットとの戦闘に勝利することができたのだ。
「グリーンワームが持ってたんすか? あんな弱っちい敵のくせに、そんなアイテムを落とすんすか」
「北屯所の平八さんの話だと、旅人を襲って手に入れた宝を持ってるやつが稀にいるらしい。俺が戦ったやつが、たまたま魔法の吹き矢を持っていて、それを俺が倒したから入手できたんだろうな」
「あのグリーンワームにやられる旅人がいるんすかね……?」
「分からないけど、いたんだろうな。現に、倒したらドロップしたわけだから」
 本来なら元々持っていた持ち主に返すべきだが、当の持ち主は十中八九クリーチャーにやられてしまっているから、ドロップしたアイテムは自分のものにしていい――と平八からも言われている。
「それより、そのアイテムはミズキに使ってもらったらどうだ? 俺やフミトが持っていても仕方ないだろ?」
「そうっすね。ほら、ミズキ。早速使ってパワーアップさせちまえよ」
「うん、ありがとう」
 手渡された風の神札を魔法の吹き矢にあてがう。すると、神札は緑の光を帯びた風となり、魔法の吹き矢に吸い込まれていった。
「終わった……のか?」
「たぶん。何となくやけど、使い方が分かる感じがする」
 ここにきて、道具までパワーアップした。心強い。
「じゃあ、今度こそ、ここには用はないな。行こう」
 静かな眠りを邪魔してしまった非礼を詫びて、三人は静かに地下墓地を立ち去った。シンメトリーのフロアに戻り、すぐ右――つまりは東の通路を進む。突き当りに、大きな両開きの扉が見えてきた。
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