イワト隠れ -17-

文字数 2,410文字

 立ち止まっているのはまずい。敵をかく乱させるため、修二と豪は正反対の方に駆けた。亜香里とマイも、後悔の念を振り切って走り出す。敵は大きな口を開けて黒い光線を放った。――誰もいない場所に向かって。
「どこを狙ってやがる!」
 生離姦唾螺は、四人の誰でもなく、先程コージを消し飛ばした場所を攻撃していた。
「何だか分かりませんが、この機を逃す手はありません!」
 豪が斬りかかり、それに合わせて修二もタガー片手に接近する。しかし、尾のひと振りで蹴散らされてしまう。マイが攻撃魔術を放つも、同様に尾で受けきられてしまう。誰もいない箇所への攻撃に集中していて、修二たちのことは適当にあしらっている。
「ねえ……。何か変じゃない?」
 亜香里が指さす先。敵の放つ光線が床に着地するはずの箇所。床にはぶつからず、なぜか空中で受け流されていた。――まるで、結界にでも弾かれているかのように。
「ウソ……? まさか、あいつら……」
「マイちゃん、何か分かったの?」
『ガアア』
 また光線を吐き出して攻撃する。狙いも、結果も同じ。
「……! みんな、攻撃の準備して! 今の攻撃が止まったら、何とかして次の攻撃はさせないようにするわよ!」
 そう言うと、マイは攻撃態勢に入った。修二たちもそれに続く。状況や理由は理解しきれていなくとも連携ができる。それが修二たちのパーティの強みだ。
 敵の光線が止んだ。すかさず攻撃しようと、生離姦唾螺が口を膨らませた。
「今よ!」
 マイが合図したと同時に、修二と豪が動く。修二はスモークボムで敵の視界を奪い、豪は斧を投げて敵の顎を打ち上げ、強制的に上を向かせる。

 ― ディグルト ―

 仕上げに、マイが攻撃魔法を放つ。灼熱の炎が敵の足元から燃え上がり、蛇のように敵の身体を嘗めていく。巨大な蛇の身体を持つ敵を、細い炎でできた蛇が縛り上げていく。これで尾での物理攻撃は不可能になった。
「やるなら早くやんなさい!」
「サンキュ!」
 青年の快活な声が響いた。

 ― 破魔金の矢 ―
 ― 衝光波 ―

 光線の影響で立ち込めていた噴煙に穴をあけながら、煌めく矢が飛び出した。生離姦唾螺が執拗に攻撃していた場所には、フミトとミズキ、そしてコージが立っていた。フミトが放った破魔金の矢に、ミズキの雷の吹き矢とコージの衝光波が並ぶ。悪しきものを貫く破魔金の矢に、ミズキの矢の雷の威力とスピード、そしてコージの放った光のエネルギーが合わさり、全てを消し滅ぼす滅却(めっきゃく)の矢となった。
『イアア……』
 視界は遮られていても、危険な攻撃が向かっていることは肌で感じているのか、何とか躱そうと身をよじっている。だが、マイの魔術がそれを許さない。滅却の矢が光を散らしながら駆けていき、イヤイヤをする巫女の心臓に命中した。
『ギィアアアアアアアアアアアアア』
 巫女の身体が膨らみ、胸から、腹から、顔から、蛇の胴体から、あらゆるところから強い光が漏れていく。苦しみのあまりのたうち回った蛇の内側を、容赦なく光が食らい、最後に全身が強い光に包まれたかと思うと、生離姦唾螺は淡い粒子となって消えていった。永遠とも思えた戦いが終わり、コージ達のアームヘルパーに光が吸収されていった。

「終わった……のか?」
「ええ。もう気配は無いようです」
「はあ……。もうダメかと思ったよ」
「こんなヤバイ奴が出てくるなんて、どうなってんのよ、まったく」
 修二、豪、亜香里、マイが順に言う。「それより」とマイが続ける。
「あんたたち、一体どうなってんのよ。なんで生きてるの?」
「なんで生きてるの、はねーだろ」
 フミトが腰に手を当てて抗議する。まあまあ、と宥めてミズキが代わりに答える。
「フミトのお陰やねん。避魔の矢っちゅう、結界を張ってくれる技を咄嗟に出してくれたんや。結界の中にいたお陰で無事だったんや」
「まあ、最初の一発目は結界を張るのが間に合わなかったんだけどな」
「どういうことよ。なら、なんで無事なのよ。あんたたち二人、あの黒焦げになってる場所に、間違いなくいたじゃないの」
 マイが指差した床は確かに黒焦げになっていて、そこに闇の光線が当たったことは間違いようのない事実だった。
「それは残像だ。陽炎(かげろう)って技を使った。その場に残像を残して、少し離れた場所に瞬間移動したんだ。咄嗟にミズキを掴んで、一緒にな」
 生離姦唾螺と闘う前のザコ戦でのレベルアップ。その時にフミト覚えた技が陽炎――自分の残像を残して姿をくらまし、敵を惑わす技――だった。フミトは、逃げ隠れするのは性分に合わず、嬉しくない技と言っていたが、重要な場面で大活躍してくれたのだった。
「俺も騙されたよ」
 とコージ。陽炎で退避したことなど知らないコージは、深い絶望と喪失感に襲われ、迫りくる光線に対してあまりにも無防備だった。それに気づいたフミトが、「コーディネイト」の呪文で一瞬でコージの傍に移動し、その場に避魔の矢を放って結界を張った。お陰で、誰一人失わずに助かったのだった。
 生離姦唾螺が執拗にフミト達を狙っていたのは、まだ生きていると気づいていたためだった。ただでさえ警戒すべき破魔金の矢の使い手だというのに、合わせ技によって強力な技を放ってくる危険な存在だったからこそ、修二たちを蚊帳の外に置いても集中攻撃していたのだ。フミト達が攻撃に移れないように、間髪おかず光線を打ち出していたのも、反撃を警戒してのことだった。
「お前らが隙を作ってくれたから、反撃できた。感謝するよ」
 コージに言われ、各者多様の反応を返してきた。
「けっ、感謝してんならモノで示しな」とそっぽを向く盗賊。
「こちらこそ、助けていただいて感謝します」と頭を下げる戦士。
「一時は死ぬかと思ったよ。君たちは命の恩人だよっ」と両手を合わせる神官。
「ま、まあ、礼は受け取ってあげるわよ。これで貸し借りナシだからね!」と頬を赤くする魔導士。
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