イワト隠れ -5-
文字数 2,224文字
本来であれば、緑豊かな自然や草花を眺めながら、新鮮な空気を楽しめるような場所なのだろう。それが今や、おどろおどろしい心霊スポットのようになってしまっている。ミズキの明かりを頼りに進んでいるが、それでも時折、木の根や盛り上がった地面に足を引っかけて転びそうになる。それでも、はぐれないよう、三人で声をかけ合って進む。
人が二人並ぶのがやっとという狭さの道をしばらく進むと、キャンプ場のような開けた場所に出た。
「ここいらでいったん休憩しませんか?」
そう言ったのはフミトだ。
「急がなくてええん? 早く何とかせえへんといかんのに」
「急ぐだけじゃダメだろ。何とかするったって、疲れ切ってたらできねーし」
疲れているのは、みんなの顔を見れば明らかだった。道中、クリーチャーと何度か戦闘をした。普段なら敵ではない相手なのに、視界が悪い中での戦闘はいつもの倍以上に神経を使った。いつ現れるかも分からないクリーチャーに気を付けながら歩くのは、常に緊張状態を保っているのと同じだ。
「待ってろ、いま結界張るから」
フミトは避魔 の矢で結界を張った。矢を中心にドーム状に空間が広がり、張りつめた空気が和らいだ。初めて見るミズキは不思議そうにしていたが、中が安全だと分かると、ぺたんと座り込んでしまった。
「しっかり休もうぜ」
フミトが差し出した水の入ったペットボトルを、ミズキは「ありがとう」と言って受け取った。
「飯も食っとこう。南屯所でもらった弁当が手つかずで残ってるからな」
コージのアームヘルパーに保存しておいた弁当を取り出し、食事を始めた。明かりを常に出しているミズキが食べにくそうにしているのを見かねて、フミトは弁当箱を持っていてやった。
「今度、テーブルも買っとくか」
「ウチはこれでもええで」
「オレが疲れるってーの」
コージは親になったような気分で二人のやり取りを眺め、あまり口を出さずに休息をとった。そうなると必然的に手持ち無沙汰になるので、プロフィールを覗いてみることにした。イワト高原を進む間の戦闘でコージはレベルが上がっていたが、ただでさえ視界が悪いのに、いつ敵に襲われるかもしれない移動中に、呑気にプロフィールを確認している余裕はなかったのだ。コージはレベルが17に上がり、新しい技を覚えていた。
――――――――――――――――――――
【衝光波 】
剣を振って光の衝撃波を打ち出す技
※戦闘中のみ使用可能
――――――――――――――――――――
初めての遠距離攻撃技だ。これまで覚えた技は敵に接近して攻撃するものだったが、これなら不用意に接近せずとも攻撃できる。魔法の吹き矢という道具もあるが、その攻撃が通用しない相手の場合、接近するしか攻撃手段がなかった。手段が増えるというのは心強い。
「ごちそうさま」
「大量の弁当を全部食ったよ、こいつ。その細い身体のどこに入ってんだか」
「ウチも不思議に思ってんねん。ルナに来てから、なんや大食らいになってしもて」
「もとからじゃねーの?」
「失礼やなあ。カットケーキなら、せいぜい十個やて」
「ホール食いじゃねーか」
聞いているだけで胸焼けしそうな話だ。そんな話ができるくらいに緊張が和らいだということ。張りつめたままだと休息どころではないから、こうして掛け合いするくらいが丁度いいのだ。では、残念だが、口を挟ませてもらおう。
「さて、そろそろ出発しないか」
「了解っす!」
「二人とも、もう少し休まないでええん? 戦闘はずっと二人に任せっきりやったし、疲れてへん?」
武器も攻撃魔法もないミズキは、戦闘になったら下がってもらっていた。本人としては、それが引け目に感じられたのだろう。もちろん、コージ達は何とも思っていないし、お互いさまという認識だ。
「お前は戦闘中どころか、今もずっと明かり点けてくれてるだろ。だから、気にすんな」
「ウチは平気やけど……。やっぱり闘いできひんと、役に立ってる気がせえへん」
ミズキがいなければ、戦闘どころか移動もままならないのだから、役に立っていないわけがないのだが……。ミズキの中では他人の評価は関係なく、戦闘で役に立つことが自己評価に繋がるのだろう。それなら。
「じゃあミズキ、これ使わないか?」
コージは魔法の吹き矢を取り出し、差し出した。
「何なん、これ」
「魔法の吹き矢っていって、これを使うと雷みたいな矢が飛び出すんだ。ザコ敵なら、ほぼこれで退治できる。俺はレベルが上がって遠距離攻撃を覚えたし、これがなくても平気だ。だからミズキが使えよ。戦闘に加わりたいんだろ? やるよ」
「ありがとう! これなら片手塞がってても、なんとか攻撃できそうやな!」
自らの手で放つ光に負けない眩しい笑顔になった。人の根っこにある悩みは、慰めても解決しない。根本原因を取り除き、自己評価ができるようにしないといけない。ミズキはようやく、自己評価をするための土俵に立てたのだ。
「あの……。それって間接キ……」
「よく洗っておいたから心配すんな。意識もしてない」
フミトが余計なことを言い出したので、口を塞いで弁明しておいた。ミズキの劣弱 意識を解決するために提案しただけであって、それ以上の意図や感情は誓って無い。なぜフミトの方が意識しているのだ。
「次からウチも役に立てるで!」
当の本人がこの調子だというのに。それにしても、歳を追うごとに羞恥心や配慮をどこかに忘れてきてしまったのだと、この若者を通じて再認識させられた。
人が二人並ぶのがやっとという狭さの道をしばらく進むと、キャンプ場のような開けた場所に出た。
「ここいらでいったん休憩しませんか?」
そう言ったのはフミトだ。
「急がなくてええん? 早く何とかせえへんといかんのに」
「急ぐだけじゃダメだろ。何とかするったって、疲れ切ってたらできねーし」
疲れているのは、みんなの顔を見れば明らかだった。道中、クリーチャーと何度か戦闘をした。普段なら敵ではない相手なのに、視界が悪い中での戦闘はいつもの倍以上に神経を使った。いつ現れるかも分からないクリーチャーに気を付けながら歩くのは、常に緊張状態を保っているのと同じだ。
「待ってろ、いま結界張るから」
フミトは
「しっかり休もうぜ」
フミトが差し出した水の入ったペットボトルを、ミズキは「ありがとう」と言って受け取った。
「飯も食っとこう。南屯所でもらった弁当が手つかずで残ってるからな」
コージのアームヘルパーに保存しておいた弁当を取り出し、食事を始めた。明かりを常に出しているミズキが食べにくそうにしているのを見かねて、フミトは弁当箱を持っていてやった。
「今度、テーブルも買っとくか」
「ウチはこれでもええで」
「オレが疲れるってーの」
コージは親になったような気分で二人のやり取りを眺め、あまり口を出さずに休息をとった。そうなると必然的に手持ち無沙汰になるので、プロフィールを覗いてみることにした。イワト高原を進む間の戦闘でコージはレベルが上がっていたが、ただでさえ視界が悪いのに、いつ敵に襲われるかもしれない移動中に、呑気にプロフィールを確認している余裕はなかったのだ。コージはレベルが17に上がり、新しい技を覚えていた。
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【
剣を振って光の衝撃波を打ち出す技
※戦闘中のみ使用可能
――――――――――――――――――――
初めての遠距離攻撃技だ。これまで覚えた技は敵に接近して攻撃するものだったが、これなら不用意に接近せずとも攻撃できる。魔法の吹き矢という道具もあるが、その攻撃が通用しない相手の場合、接近するしか攻撃手段がなかった。手段が増えるというのは心強い。
「ごちそうさま」
「大量の弁当を全部食ったよ、こいつ。その細い身体のどこに入ってんだか」
「ウチも不思議に思ってんねん。ルナに来てから、なんや大食らいになってしもて」
「もとからじゃねーの?」
「失礼やなあ。カットケーキなら、せいぜい十個やて」
「ホール食いじゃねーか」
聞いているだけで胸焼けしそうな話だ。そんな話ができるくらいに緊張が和らいだということ。張りつめたままだと休息どころではないから、こうして掛け合いするくらいが丁度いいのだ。では、残念だが、口を挟ませてもらおう。
「さて、そろそろ出発しないか」
「了解っす!」
「二人とも、もう少し休まないでええん? 戦闘はずっと二人に任せっきりやったし、疲れてへん?」
武器も攻撃魔法もないミズキは、戦闘になったら下がってもらっていた。本人としては、それが引け目に感じられたのだろう。もちろん、コージ達は何とも思っていないし、お互いさまという認識だ。
「お前は戦闘中どころか、今もずっと明かり点けてくれてるだろ。だから、気にすんな」
「ウチは平気やけど……。やっぱり闘いできひんと、役に立ってる気がせえへん」
ミズキがいなければ、戦闘どころか移動もままならないのだから、役に立っていないわけがないのだが……。ミズキの中では他人の評価は関係なく、戦闘で役に立つことが自己評価に繋がるのだろう。それなら。
「じゃあミズキ、これ使わないか?」
コージは魔法の吹き矢を取り出し、差し出した。
「何なん、これ」
「魔法の吹き矢っていって、これを使うと雷みたいな矢が飛び出すんだ。ザコ敵なら、ほぼこれで退治できる。俺はレベルが上がって遠距離攻撃を覚えたし、これがなくても平気だ。だからミズキが使えよ。戦闘に加わりたいんだろ? やるよ」
「ありがとう! これなら片手塞がってても、なんとか攻撃できそうやな!」
自らの手で放つ光に負けない眩しい笑顔になった。人の根っこにある悩みは、慰めても解決しない。根本原因を取り除き、自己評価ができるようにしないといけない。ミズキはようやく、自己評価をするための土俵に立てたのだ。
「あの……。それって間接キ……」
「よく洗っておいたから心配すんな。意識もしてない」
フミトが余計なことを言い出したので、口を塞いで弁明しておいた。ミズキの
「次からウチも役に立てるで!」
当の本人がこの調子だというのに。それにしても、歳を追うごとに羞恥心や配慮をどこかに忘れてきてしまったのだと、この若者を通じて再認識させられた。