はじめてのボス戦 -18-

文字数 1,517文字

「ありがとうございます。以前に報酬はいただいたんだし、これで充分です。ちなみに、回復薬は手持ちありますか? もしお持ちだったらいくつか買いたくて」
『もちろんです! 中級薬の手持ちはそれだけですが、下級薬でしたらございますわ。外を移動しているときに売ってほしいと言われることもあるので、移動販売できるようにいくつか持ち歩くようにしていますの』
 薬屋としての顔が割れている彼女ならではのエピソードだ。
『とはいっても、大きな薬箱に入るくらいの数になってしまいます。前は大量購入にも対応できるようにリヤカーでたくさん持ち運んでいたのですが、道路を走っていたときに注意されてしまって……。それ以来、薬箱に収まる量にとどめる様にしましたの。きちんと車道を走りましたのに、あんなに怒られるなんて……』
 破天荒な彼女ならではのエピソードだ。巫女姿でリヤカーを押しながら車道を走ったのか、この人は。リヤカーという言葉自体が懐かしすぎるが、コージにとっては学校の敷地内で使うものであって、一般道路を走るという発想はなかった。
『それはそうと、今あるのは回復薬が八個と毒消し薬が二つになります。いかがしますか?』
「買い占め行為は良くないですけど、できれば全部いただきたいです。先の戦いでだいぶ消費してしまっていて」
『もちろん大丈夫ですわ! ありがとうございます』
 コージはアイテムを受け取ると、半分をフミトに手渡した。
「え! いいっすよ、コージさんが払ったんだから、コージさんが……」
「半分こだ。仲間だろ」
 無理やりご馳走する先輩みたいな感じになってしまったが、受け取ってほしかった。最終的には「あざっす」と言って貰ってくれた。
『ぜひお店の方にもいらしてくださいね。いただいたマンドラゴラの根を使って上級薬も用意しておきますから。それと、マンドラゴラ以外にも薬の材料になるものがありますので、機会があれば入手をお願いしたいですわ。マンドラゴラで作れるのは下級薬からせいぜい上級薬までなのですがこの世界には最上級薬というものがありましてその名の通りにとても貴重なお薬になりますのですからそんなお薬の材料もそれはそれは大変貴重で』
「やべえ! フミト行くぞ!」
「え? え?」
 制御不能のジェットコースターからはとっとと離れるに限る。フミトの腕を引っ張って、弾丸トークから逃げだした。研究所から出たところで、五階の窓を見上げて言う。
「ヤベェなあの人」
「だろ? なんでこんな変なキャラクターばかりなんだか、この世界は」
 これまで出会った人を思い浮かべると、何となく笑いがこみ上げてきて、二人は吹き出してしまった。ひとしきり笑うと、貰ったフリーパスで早速タクシーを呼んで乗り込んだ。向かうのは街の居酒屋だ。クエスト達成祝いとお疲れ会を兼ねて、そして二人の親睦を深めるため、コージから誘った。飲みニケーションは今時古いかもしれないが、それでも二人で酒を酌み交わしながら話したかった。フミトはニコニコ顔で付き合ってくれた。
 今回受注した二つのクエストは、全く接点が無いようで、密接に関わっていた。日谷親子にとってプラスに働いたのだとしたら、これ以上嬉しいことはない。
 そして、収穫はそれだけではない。コージとフミトの関係性も変わった。どちらも互いを認め合っているのに、本音を伝えるのが下手くそだった。それが、今回のクエストをこなす過程で、お互いに信頼し合っていることを確かめられた。
 どちらか一方でも目先の利益や利己主義に走っていたら、成長はありえなかっただろう。情けは人の為ならず、だ。こうして、二人の初めてのボス戦は勝利を収め、たくさんの収穫を得る経験となったのだった。
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