はじめてのボス戦 -5-

文字数 1,514文字

 メインクエストを変更して次なる場所に向かう。空の矢印が差すのは、北屯所方面に進んだ先の古い木造平屋の一軒家だった。レトロというには傷みが目立つその家の周りは雑草が伸び放題で、にわかには人が住んでいるようには思えない。
「まじでここなんすかね……?」
「俺も疑ってるけど……。矢印はここだしな……」
 人がいるか確認しようにもインターホンが見当たらないので、仕方なくガラス戸を叩く。
「すみません。いらっしゃいますか」
 何度か呼びかけてみるが応答がない。たまたま不在なのか、そもそも人が住んでいないのか。なんとなく後者ではないかと思う二人だが、それならば依頼者はどこにいるというのか。いつまでもここに居ても仕方がないので、後でまた来ようかと話していると。ガラリ、とゆっくり戸が開いていき。
『お待たせしてごめんなさい』
 左脚と左腕が欠けた、やせ細った女性が姿を現した。残った腕と脚は傷だらけで、ただぶら下がっているだけの付属品のような状態だった。床に座ってようやく戸を開けたといった様子の彼女は、呆気に取られるコージ達を見上げる。
『こんな所からごめんなさいね。ご覧の通り、思う様に動けなくて』
 無理に応対しようとする彼女を慌てて止め、冷たい玄関の床から廊下に抱き上げて座ってもらっていると、
『やめて!』
幼さの残る高い声と共に、誰かが玄関に駆け寄ってきた。コージ達を押しのけるようにして女性を庇う。
『お母さんに何するのよ!』
 隻腕隻脚の女性の娘であろう少女は、そう言って男二人を睨みつけた。地べたにいる女性を家に上げただけなのだが、傍から見れば乱暴しようとしていたようにも捉えられる。涙目で虚勢を張る少女にどう説明しようかと考えあぐねていると、女性の方がフォローしてくれた。
『落ち着いて。地べたで応対した私を、家の中に運んでくれただけよ』
『え……? 本当ですか……?』
「はい。依頼について話を伺いに来ました。お母様が出てくれたんですが、外まで出て来られようとしたので、さすがに見ていられず……」
『そうだったんですね……。失礼なことをしてしまってごめんなさい。お母さん、だめじゃない。わたしが帰るまで家の中でじっとしててねって言ったのに』
『そんなことを言っても、お客様がいらっしゃってるのに居留守なんて失礼でしょ。そんなことより、いつまでも玄関で話していないで、上がっていただきましょうよ。あなたのお客様なんでしょう?』
『もう……。すみません、母を奥に連れて行くので、少し待っていただけますか? その後、お部屋にご案内しますので……』
 娘は母親を介助しながら家の中に連れて行き、間もなく戻ると、コージ達を居間へと案内してくれた。外観からは想像できなかったが、中はきちんと清掃されていて、天井が蜘蛛の巣だらけなどということはなかった。居間に着くと、大人の男がすっぽり入りそうな長方形のこたつの長辺にコージ達と娘が向かい合うように座った。短辺の座椅子には母親が背を預けている。急須で淹れたお茶を四人分用意すると、娘が口を開いた。
『さっきはごめんなさい。わたし、日谷春香(にちやはるか)っていいます。こちらは母です』
翔子(しょうこ)と申します』
 コージ達も簡単に自己紹介を済ませた。春香は居住まいを正すと、さっそく本題に入った。
『単刀直入に言います。父を殺し、母をこんな姿にしたクリーチャーを倒してほしいんです』
『春香……。復讐なんてやめてってあれほど……』
『だって、悔しいじゃない! 二人は自然環境を守るための研究をしていただけなのに、こんな目に遭って……。お父さんなんか、殺されちゃったのよ……。お父さんを殺した奴が、このまま野放しになったままだなんて、わたし許せない』
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